第38話 土器屋

「ごめんくださーい」


先程の予定通り宿を取って必要な物を確認し、とりあえず土器屋へとやって来た。

クロエには別行動で調理道具の調達をお願いしてあるので、今回はアリスと2人で。


街の中を歩くのにも、念の為外套とフードを忘れない。アリスは黒い帽子をかぶっているから髪色は見えづらいだろうが…見られないように注意しておくに越したことはない。


「ん…父ちゃん!お客さんだよ!」


受付…と思われるところで何かの本を読んでいた男の子が大声で叫ぶ。

店員じゃなかったのか…と思いながら、辺りを見渡す。

店は狭く…というか、物が多い。入口の右側に3列に置かれた大きな棚の中に、所狭しと並べられた器。様々なサイズのものが沢山重ねて置いてある。


「いらっしゃい。好きな器を取ってくれるか?」


受付の奥。おそらく家かなにかと繋がっている建物の中から、初老の男性が顔を出す。

私たちの立っている地面から少し高めに立てられたそれに腰掛けた男性は、こちらを見ながらニコニコと笑っている。


「結構儲かってますか?」

「あはは、ぼちぼちです。何分、数を売る商売ですからね」


…さて、どうするかな。

なにか宣伝になるような奇抜な器とか…うーん。


「これって、店主さんが作られてるんですか?」

「ええ。土魔法で形を作って屋外で乾かすだけですから。ここらは寒いのでよく乾くんですよ」


なるほど…アリスが棚の中の皿を何枚か持ち上げてみている。

基本的にサイズや厚み以外に種類は無さそうだ。


どうしようかな…としばらく周りを見渡していると、店主の奥。つまり、家と思われる物の中に藍色のローブが見えた。

なんだか似たようなローブを着ている人を、街の中で何人も見かけた。


「店主さん、そこのローブは?」

「ああ、これは売り物ではなくて…」

「俺のローブだよ。魔法ギルドのね」


受付に座って引き続き本を読んでいた男の子がこちらを見ずに教えてくれる。

なるほど、魔法ギルドはローブを着るのか…つまり、外で見かけたのはギルドの人か。


「私達旅のものでして…もしよければ、魔法ギルドについて教えてもらうことって…」

「…おいルカ。本ばかり読んでないで接客しなさい」

「…はぁ」


ルカと呼ばれた男の子は、本を机の上に置いて立ち上がる。

身長は…それほど高くない。おそらく、アリスよりも年下の…12歳とかか?

少し長めで親譲りであろう茶髪を伸ばした彼は、こちらを睨みながら立ち尽くす。


「…姉ちゃん、どこの人?」

「フランシスカです。サマリロから荷物を持ってきた行商人です」


少年の、品定めするような目つきは止まらない。私を下から上まで眺めた後に、アリスの方にも目を向ける。

失礼なガキだな…と思いつつ、アリスへの視線を遮るように間に立つ。


「すみませんねお客さん。まだ店番に慣れてないもんで…」

「いえ、大丈夫です。考えてまたお邪魔するかもしれません」


そのまま後ろ手にアリスの手を引いて、店を後にする。木でできた扉を閉めて、そのまま道を進む。


「…アンナ?なにか怒ってる?」

「…いや、ごめん。大丈夫」


少しイライラしてしまった。歳下相手に大人げなかったかな…

さて、念の為他の土器屋も回ってみるか…


幸いにもここは魔法の街。同じように魔法を使う商売の店には事欠かないようだし、何ヶ所か回れば希望の、宣伝になるような面白い器もどこかに…


──

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