第37話 モンタニカ

「うわぁ…でっか…」


モンタニカの門をくぐって、初めにクロエが呟いた。

クロエと激闘を繰り広げた2日後の朝…いや、なんで稽古で激闘を繰り広げてるんだ私達は…

とにかく朝早くにモンタニカに到着した私達は、門番に身分証を提示して、モンタニカの中へと入った。門番と読み合いの駆け引きを行わなくて済むのは、気が楽だ。


門を入って最初に目に入るのはやはり、街の真ん中に大きく構える直立の塔。前に見たサマリロの豪邸の何倍も高く積み上げられた金属で出来た塔は、この街の何よりも高く高くそびえ立っている。


「これが魔法ラジオを飛ばしてる所よね。多分」


アリスが目を輝かせながら各方向を見渡す。

その塔の周りは大きな広場のようになっていて、広場の中にいくつもの露店が立っている。そしてそこで売っているのは…ほとんどが野菜のスープ。


「…スープがよく売れるっていうか、スープしか売ってないじゃん…」

「うふふ、分かりやすいセオリーってやつなのね」


これだけ立ち並んでいたら、値段さえ揃えれば売ればするだろうが…売れてもそれだけだ。固定客が着くわけでも、客足が増えることもない。あくまで沢山ある中のどれでもいい店のひとつにしかならないだろう。


「どうするの?アンナ」

「…ちょっと、考えるよ。とりあえず納品に行こう」


先程門番に聞いた場所へと馬車を進める。地面は雪かきをされた石畳になっていて…分かりやすく言うならば、塔を除けばフランシスカと似たような街だ。


今回の卸場所おろしばしょはその塔の裏側…つまり、北側になる。広場を出てから極端に人通りが減った道を進む。


「…広場の外には人がいないんだね」

「まぁこの寒さだし…用事がなければわざわざ行かないでしょ」


南門を入ってすぐに大きな道があり、そこから中央の広場を超えて、細くなった道を進む。普通の店や家は広場から東西に伸びる筋に集中しているようだし、こっちに用事がないのも頷ける。


「…と、ここかな」


塔の裏側は大きな扉になっていて、その前に石造りの屋根が拡がっている。チェスプリオで見た積み場と同じような場所だ。

再びクロエにアリスを連れて行ってもらい、受付での誘導に従って奥へと進む。


「お、来たな。ここに止めてくれるか」

「分かりました」


塔の扉から少し右にズレた場所で屈強な男達が3人ほど待ち構えている。馬車を止めて後ろの幌を開く。相変わらず独特な匂いだ。毛布を二枚重ねにしているからだいぶマシだが…


「遠い所ご苦労だったな。契約書を見せてくれるか」


おそらくその場の指揮を取っている男性が手を伸ばす。鞄の中の契約書を取り出して渡すとそれを読みながら何度か頷いて、後ろの男達に指示を出す。


「じゃあこれ、報酬の金貨2枚だ」

「えっ…こんなに?」

「なんだ、内容聞いてないのか?あぶねぇぜ、ソレ」


悪かったな…しかし忠告の内容はごもっともだ。依頼内容と報酬を把握してないなんてちょろまかされても文句言えない。

次からはきちんと把握することにしよう。

それにしても、金貨2枚か…


「この葉っぱって、何に使われるんですか?」

「何って…香辛料の原料なんだから、香辛料だろ。俺達も詳しくは知らないけどな」


指示を受けていた男性が地下へ続く扉を開いた。よく見なければ気付かないが、石造りの下ろし場の中にいくつも同じ扉が付いていたようだ。

その扉の中へ、オーマの葉がポイポイと投げ込まれる。


「この先はどこへ?」

「さぁな…俺達はこいつを降ろすために雇われてっから、なんにも知らねぇんだ」


扉と馬車の距離が近いのもあって下ろし作業はすぐに終わった。再び幌を閉じて、下ろし場から退出する。

なるほど、地下に放り込んでしまえば地上で匂いは少なくなるから、街の中でも降ろせるのか。チェスプリオは普通に地上に保存していたから匂いがキツかったが…


まぁどうでもいいか。とりあえず…


「アリス、クロエ。終わったよ」


雪に囲まれた細い通りの端に2人並んで腰掛けていた所に、声をかける。

アリスが寒い寒いと言いながら馬車に飛び乗って、クロエが馬の隣を歩くいつもの光景へと戻った。


「クロエの方は受け取りしなくていいの?」

「ああ、街を出る時にね。まだこれからなにかするのかい?」

「いや、特には…とりあえず、スープを売る方法を考えないといけないかな」


元手は手に入ったので、何らかの差別化を図りながら売り上げたいところだが…

材料自体はそんなに多く持ってきている訳では無いので、多く売って儲けるよりも何か宣伝のようなものが出来ればいいんだが…


「そういえばアンナ、報酬って幾らだったの?」

「それがさ…金貨2枚」

「金貨2枚!?」


クロエが驚きの声を上げる。その反応は分かる。

アリスも驚いて口を開けて呆けている。


「そんなに美味しい仕事なのね…だからあの村もあんなに栄えたってこと?」

「多分ね。香辛料にそんなに価値があるのかとは思うけど…」


金貨2枚は、サマリロの宿換算で40泊できる計算だ。こんなに儲かるとは思ってなかった。

…うーん、どうしても腑に落ちない。価値に見合ってないような気がしてならない。


…まぁ、分からないことを考えても仕方ない。それよりもこれからやる事…持ってきたスープの材料を売り切らなくては。


「とりあえず宿を取ろう。スープの材料の量とかで売るのに必要な物を計算しなきゃ」


まず、皿を持ってない。魔法ギルドの街ということで現地調達を前提にしてきたからだ。

次に場所、人員、調理道具…


用意するものは、沢山ある。

さぁ、仕事の時間だ。


──

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