第34話 モンタニカへ!

「わぁ…すごい…」


リーヴィルを出てから2日後。おそらくモンタニカとフランシスカの中間くらいには来たと思うのだが…

土が少しなだらかになっているだけの街道に沿って山を登り、そしてこれから下り坂になるという所で見えた、一面の雪景色に私達は呆気を取られていた。

馬の負担を減らすために歩いていたアリスがそれを見て声を漏らしていた。


「これはすごいな…馬大丈夫かな」

「頑張ってもらうしかないよ」


私の心配を、クロエはあっさりとあしらう。まぁ確かにそれしか道は無いので頑張ってもらうしかないのだが…


「冷たいなぁ…雪みたいだ」

「お、そんな面白くない事が言えるなら人間は大丈夫だね」


うるさいなぁ…

馬は雪を踏むのを少し嫌がったようにも見えたが、特にペースを落とさずに進んでいく。幸い今のところは立ち往生するほど降っていないようだ。

早いうちにここを抜けるしかない。


「行こうアリス。乗って」

「うん。ありがとう」


アリスの手を掴んで、御者席へと引っ張りあげる。

荷台は毛布を重ねているので匂いが漏れてくることはなくなったが、相変わらず中は臭い。荷台に乗れれば話は早かったんだが…


「それから、防寒着を出しといてもらえる?」

「分かった」


さすがにここから先は普段の薄着では寒い。

クロエもいつの間にかリュックから出した上着を着込んでいる。


アリスが袋から取り出したのはアダムから貰った黒いコートと、アリス用に買ってきたクリーム色のコート。

アリスが着込むと、サイズは丁度いい。良かった、私とあまりサイズは変わらないようだ。


「これ、ちょっとデカイな…」


私の方はさすがにアダムのお下がりだけあって少し大きかった。防寒着だし問題ないか。


「クロエ、毛布置いとくから寒かったら乗ってね」

「ありがとう」


アリスが毛布を器用に畳んで、アリスの膝から反対側のクロエが座る予定のところまで届くように置いた。とりあえず吹雪になる前に抜け切りたいところだ。


「クロエはモンタニカに行ったことあるの?」

「うーん…ないかなぁ。仕事で行くことはない街だからね」


…まぁ、そんなもんか。サマリロとモンタニカは南北で真反対だし


「とりあえずよく言われるのはファーレスで1番大きい魔法ギルドがある魔法使いの街って事かな。基本的に魔法が栄えた街みたいだね」

「魔法ラジオもそこから来てるって言ってたわ」


あぁなるほど、前に言ってた北の街って言ってたのはモンタニカか。

…魔法ラジオ、か


「…クロエ、リーヴィルの事件ってもうラジオで流れてるのかな」

「そうだね…作業の進捗を見るに結構前…なんならサマリロにいた時に流れてたんじゃないかな?」


…リンドは、本当に知らなかったのだろうか。それとも、どうでもいいと思っていたのか?

商業ギルドにいるなら真っ先に情報は流れてくると思っていたから商業ギルドで「コルベール一家について知っているか」と聞いたつもりだったが…まぁあの程度でボロを出すほど頭が悪い人ではないと思うから本心は分からないままだ。

なんにしても仕事を紹介してもらってこんな事言うのはなんだが…信用が置けない人物であるのは確かだと思う。裏が読めず、裏がかけない。


「アンナ?大丈夫?」

「ああ、大丈夫。考え事を少しね」


アリスに心配させてしまった。極寒の地だしいつもより振る舞いに気をつけないと要らぬ心配をかけてしまうな。


「そういえばアンナ、寝る時はどうする?」

「うーん…一応毛布を何枚か持ってきたからそれを被るか…最悪荷台かな」


匂いは最悪だが、雪風が凌げるのは間違いない。幌が潰れるので定期的な雪落としが必要かもしれないが…


「枯れ草に火をつけるにしても火魔法がないからね…どっちにしてもランタンに火をつけるのに火起こしはいるけど」


いつもはランタンに火を移して水だけ沸かしたら煙が出るのを嫌って火を消すのが日常になっていたが、雪国にいる間は長めにつけた方がいいだろう。雪の中でつけばの話だが


「大丈夫?アリス、寒くない?」

「うん、大丈夫」

「クロエは?」

「まぁ今のところは。困ったらそこ座るから大丈夫」


そこからしばらく進み、段々と日が暮れてきた。日が暮れるにつれて周囲の温度はさらに下がっていく。


「寒いな…泊まろうか」

「そうだね。日程にはまだ少し余裕があるだろうし、早めに休もう」


サマリロを出てから、明日で10日目。あと4日の猶予がある。このペースで進めば2日か3日くらいで着くだろう。


「さてと…クロエ、周りに森はありそう?」

「うーん…あ、あそことかいいんじゃない?」


クロエが指差す先にあったのは…小さな林。数十本程度の木が生えているだけの小さな場所だが…落ちた枝を探すだけならあのくらいでいいだろう。


「じゃあクロエ、頼める?私は火を起こしとくから」

「了解」


雪を踏み分けながら、クロエが歩いていく。人の往来もさほど多くないであろう雪原には、人間の足跡らしきものは残っていない。


「これ、他の人達はルートを変えるのかな。私達の他にも何台かモンタニカに向かってるはずだけど」


少なくとも太陽の位置を目印に進んでいるから、迷ってはいないはずだ。となると他の商人の野営の後くらいはありそうなものだが…

街道が雪に埋もれてしまっていて、判断が付きにくい。もう少し積もると馬車の車輪が埋もれてしまうかもしれない。


「早めに進まないと雪かきが必要になるかも知れないわね」

「それは面倒だなぁ…」


──

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