第33話 リーヴィル
「遅くない?」
「…ごめん」
「あのねクロエ!山を迂回してたらこのくらいかかっちゃって…」
リーヴィルの村の北側の、平原。ここには道がなく、ただ鬱蒼と茂った草があるのみ。
幸いにも馬車の車輪に絡まることはなく…というか絡まない道を選んできたのだが、道を選んだりアリスと話をしていたら、一日半くらいかかってしまった。
「はぁ…まぁいいや。アリスに免じて許すよ」
「ごめんなさい」
なぜ私がこれだけ謝っているか。それは、目の前の光景を見れば分かる。
ここからは村がそれなりに離れて見えるのだが、ここから見えるだけでも10人程の人が見える。
つまり、事件が明るみに出て、フランシスカなどの他の街の憲兵がやってきていた、ということ。
「盗賊ギルドは非合法の代名詞だって言ったよね?他のギルド相手ならともかく、憲兵は拘束されちゃうんですけど?」
「いや、知らなかったんだって。こんな事になってるなんて…」
魔法ラジオをもっと聞いておけばよかったと後悔しながら、クロエと小声で話し合う。
クロエが盗み聞きをした限りでは、事件は結構前に発覚していた。そして今は捜査の最中…ということである。
スミス達が街で聞き込みをしていたと言っていたからそれで発覚したか、それともほかの要因か…
「…それで、遺体は?」
「それがほとんど無かった。血は残ってたから話を疑うつもりは無いけど…」
憲兵が片付けた?それにしては彼らの鎧には血の汚れなどは見当たらない。
着替えた?別の部隊?それともスミス達が?
確かにアダムの話ではスミス達は私達の出た2日後にフランシスカに来たと言っていた。それより前に来ていたのかも知れないが、私達がフランシスカに滞在していた13日程の間、一度も街で会わないことが有り得るのか。
1人悶々と考えるが…答えは出ないだろう。
圧倒的に情報が不足している。もういっそ旅人の振りをして憲兵に聞いてやろうかとすら思っていた時、パン!と乾いた音が響いた。
「…アリス」
何事かと振り向いた先に、地面に木の棒を立てて、手を合わせているアリスの姿があった。先程の音はアリスの手拍の音だったようだ。
「今はこのくらいしか出来ないけど…いつか、戻ってくるから」
「…うん、そうだね」
アリスの隣に座って、手を合わせる。
大人達の…あの日私と共に居たハズの子供達の…村の人達の顔を思い浮かべながら。
私は村に貰った恩を…仇で返してしまったのかな?
答えのないそんな問いかけに、少しだけ風が吹いた。
残されて…フランシスカに引き取られていると思いたい、家畜達の匂い。
村の作物の匂い、木造の家の匂い。そして、あの日の惨劇を思い出させる、ほのかに香る乾いた血の香り。
「…よし、行こうか」
「ええ」
寄り道は終わりだ。ここからは、仕事に専念する。
馬車に戻って、少し道をもどるためにUターン。隣に座ったアンナと、馬の横を歩くクロエ。そんな姿を目に入れながら、手綱を大きく振り、ゆっくりと馬が進み始める。
「行こう。ファーレス領の北端、モンタニカへ」
──
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