第32話 始まりの場所へ

「色々、本当にありがとうございます」

「おう。まぁ、片付いたら戻ってこい」


防寒着を買い漁ってアダムの店に戻ると、2人が楽しげに話をしていた。内容は教えて貰えなかったが…


アダムから貰った藁や食料、それからスープの具材をそれぞれ袋に詰めて、馬車の後ろに括り付けた。

防寒着と毛布はアリスの隣に置いて、念の為荷物にもう一枚被せて、出発の準備が出来た。


「それから、これ」


サマリロで品物を買取ってもらった時のお金を取り出す。それをアダムに握らせて、馬車に飛び乗る。


「サマリロに持って行った商品のお金です!それだけは絶対受け取ってください!」

「…おう!ありがとな!」


広場から街を横断は出来ないから、再び北門の方へUターンする。

アリスは最後まで手を振っていたが、最後に親指を立ててグーサインを出した。気になって後ろを見ると、アダムも同じポーズをしていた。


「…ねぇ、何話してたの?」

「内緒」


まったく…さっきからこの調子で全く教えて貰えない。まぁ、なんでもいいが…


「リーヴィルには山を北から回って行けるわ。クロエさんは…」

「うん、北で待ち合わせにしてる。」


山の中を進んだ時は、3日かかった。とは言っても迂回やら休憩やらで時間がかかっていたから、普通に行けば1日程度で着くだろう。クロエは私達と入れ替わりで出て行ったから、だいぶ早く着くだろうが…山を通って行ったのかな


「なんだか、山で過ごしたのが遠い昔のことのようだよ」

「ふふ、色々あったものね」


約1ヶ月前…くらいになるだろうか。

割と怒涛の日々を過ごしたように思う。


来る時よりも荷物の増えた馬車は、何も変わらずよく揺れながら道を走る。

そんな不安定な椅子に揺られながら、二人肩を寄せ合う。


「じゃあ今日は毒キノコとキツネの生肉にする?」

「はは、勘弁してくれ」


そういえば、吸魔石のツテについて聞くのを忘れた。なんとかして手に入れば、今後楽になるだろうが…


「そういえばアリスは、回復魔法以外は使えるの?」

「ううん、試した事ないから知らないわ」


まぁそりゃあ興味なければやらないか…

そもそもどうやって使うのかも分からない。素質なのか?やり方なのか?

うーん、アダムかリンドに聞いておけばよかった。


「こりゃあまた当分焼肉はお預けだなぁ」


アダムから貰った食料の中に干し肉が入っていたから、今までの旅ではそれで事足りていたが、これから先で必ず手に入るとは限らない。摩擦で火をつけるのは非効率だし…

なんらかの手段を考えないと、いつか詰まりそうだな。


「…アリス、あのさ」

「なぁに?」

「…いや、なんでもない」


村に行くにあたって、あの夜のことをどう考えているのか聞こうかと思ったが…やめた。

サマリロでアリスは、「あの日どうこうよりも今命が助かっているという事実」と言っていた。なら、私からどうのこうのと掘り返すのはやめよう。


アリスもなんとなく私が言いたいことを察したのか、それ以上追求はしてこなかった。

ただ、私の肩に頭を乗せながら鼻歌を歌っていた。

その心地良い音色を聴きながら、馬車は前へと進んでいく。あの日、始まりの場所へ。


──

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