第30話 フランシスカへ

「アンナ!元気そうだな!」


フランシスカの中に入り、そのままアダムの所へ向かった。

クロエは引き続き街の中で情報を集めて、リーヴィルで落ち合う約束をした。

アダムは変わりなく…というか、フランシスカを出てから13日か。そんなに大きく変わるわけない。


「アダムさん、スミスが…」

「ああ、来た。お前らが出ていって、結構すぐにな」


クロエが集めてくれた情報によると、「リーヴィル村で反乱が起きて、コルベール一家が殺害された。その一人娘が行方不明で探している」と街中で聞き回っていた男が数人いたらしい。


「ブロンドの髪の女の子が来なかったかってな。俺のところに来たってことは目撃証言があったってことだろうから、見てないたぁ言えなかった」

「ううん、大丈夫。ありがとうアダムさん」


フードを深く被ったアリスが、アダムに礼を言う。それをこそばゆそうに受け取って、話は続く。


「とりあえず、物を買っていったとだけ伝えたよ。酒場にも話を通したから、アンナがここに居たことはバレてねぇと思う」

「そう…それからどこに?」

「南門から出て行った。そこから先は確認してねぇが…馬車ですれ違ったりしてねぇな?」


おそらく、私達の後を何日か遅れで追ってきていたのだろう。それからサマリロのスラム街で過ごしていたから会わずに済んだ…って所か?

もしくは入れ違いでサマリロから出たのかもしれない。


「うん、ありがとうアダムさん。危なくなったら、私達のことは答えてもいいからね」

「そりゃ無理な相談だ…とりあえず、北に行くなら早く出た方がいい」


強情な人だ…まぁ、アダムの言う通り早く出るに越したことはない。

私達は今、猛烈な匂いで目立ちやすいのだし…


「って、なんで北に行くのを…?」

「ああ、リンドから手紙が来てた。手紙の輸送屋は早ぇからな。いつの間にか追い越してたんだろ」


それでだな…と言いながら、アダムが店の奥から大きな袋を取り出した。


「とりあえず、俺のお古だが防寒着だ。着れそうならそのまま使えばいいし、無理なら売ってくれ」

「そ、そんな…悪いです」

「いいんだよ。もう使ってないんだから」


御者席に無理やり置かれてしまった。仕方ない、ありがたく受け取ろう。


「それからアンナ、身分証と商業ギルドに所属は?」

「はい、貰ってきました。商業ギルドにも一応」

「じゃあもう俺の店の名前は使わなくていい。変に足がついても困るだろ」


…確かに。スミス達にバレた時に、アダムが協力者だとバレて嘘がバレる可能性もある。アダムの身に危険が及ぶのは避けなければならない。だが…


「でもそれじゃあ、宣伝に…」

「いいんだよ。俺の弟子が無事に行商人として旅してるって事だけで、俺は満足だ」

「それにもとより、宣伝効果は期待してねぇさ。ガハハ」

「でも…」


それではここまでに受けた優しさに、報えない。紹介状とか、馬車とか…本当に色んなことを助けてもらったのに


「子供がそんな顔すんじゃねぇよ。義理くせぇのは足枷になるぞ」

「…分かりました。じゃあ私の「ワケアリ」が片付いたら…その時はまた、アダムさんの店の下に、入れてください」


アダムの目をジッと見ながら、そう告げる。

私のワケアリ…スミスからの逃亡が片付いたら、きっと


「…ったく、強情なやつだな」

「師匠譲りですよ」

「ははっ、口が達者になりやがって…いいぜ、じゃあそういう契約だ」


アダムが差し出した手を、ギュッと握る。その手は大きく、そして硬かった。

左手に握ったままのアリスの手とは、似ても似つかない。同じ人間でこうも違うものなのか。


「取り急ぎ、防寒着を買ってこい。俺の方で藁とか食糧とかは…あぁ、あと食べ物を売る気があるならスープにしとけ。寒い土地ではよく売れる」

「分かりました。その分も用意してもらえれば有難いです」


とりあえず急いで店の前から駆け出そうとして…そこで気付いた。


「アリスはどうする?一緒に来る?」


今はフードを被っているが、風が吹けば脱げるかもしれないし、なにより正面から顔を見れば、ブロンドの髪が見える。

スミスが戻ってきた時にまたバレるのを防ぐために、アリスはあまり歩き回らない方がいいかもしれない。


「私、待ってるわ。馬車も見てないといけないし」

「ああ、なら俺の屋台の中にいるといい」

「…わかりました。お願いします。アリス、行ってくるね」

「うん。気を付けてね」


とりあえず、服屋を探して…私と背丈はそれほど変わらないから、大きめの防寒着と毛布と…


やることは沢山あるが、一刻も早くここを離れなくてはならない。

スミス達のことを忘れた日はないが…本当に追ってきているという実感が生まれて、途端に生きた心地がしなくなった。


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