第29話 旅路②
「よし、じゃあ私は先に行くね」
「うん、よろしく」
「気を付けてね!」
村を出てから4日後。フランシスカには夕方にはたどり着けるだろうという会話を交わした後、クロエは偵察の為に先に行った。
それに元気いっぱいに手を振るアリスと、再び生傷が増えた手を上げる私。
これから先の道は急いでも仕方ない。クロエが戻ってくるまでゆっくりと進むことにする。
この4日間は食料が尽きることもなく、平和なものだった。時々後ろから吹いてくる風に乗って悪臭に苦しめられることはあったが。
「これ、街の中に持っていってもいいのかな…」
「そうは言っても置いておく訳にも行かないでしょ」
まぁ、アリスの言う通りだ。
私達にあまり馴染みがないから大丈夫だと思うが、何分儲かる品物のようだから、目を離す訳には行かない。
これだけ強い臭いを放っているなら、少し詳しい人が見ればすぐにわかるだろうし。
「そういえばこの仕事、報酬はどのくらいなの?」
「いや、分からないんだよ。ギルド間でやってる取引みたいだからさ」
サマリロの商業ギルドと、モンタニカの魔法ギルドがやり取りをしていると、リンドからは聞いている。
あの時点では報酬は決まっていなかったから分からないと。
ただ実績と、地位のある依頼主だから期待しておいていいとだけ言われた。
「ふーん。大変なのね、ギルドって」
「物理的な距離もあるしね…お互い大きな組織だから、そんなもんかなと思ったけど」
ただまぁ魔法ラジオという技術もあるし、物理的な距離は問題では無いのかもしれない。
もうその辺は私なんかじゃあ考えもつかない。
「銀貨が何枚かなぁ、先立つものが手に入ればいいけどね」
「そうね。お金に関してはまだ油断出来ないもの」
私の手持ちは、フランシスカにいた時に2人で貯めたお金と、アダムの商品を売ったお金しか残っていない。
馬の代金も天引きにしているから商品を売ったお金はアダムに返さなくてはいけないし、結局私達の身入りのお金は全く増えていない。
そんなことを2人で話しながら、馬車は先へと進む。右手には、フランシスカの大きな門が見える。あれはおそらく、西門だろう。
今回も目立つのを避けるために、北門に大回りしている。
サマリロではスラム街にいたし、私達も大概非合法な存在だなと2人で笑い合う。
その時、東から来た強い風が吹いた。
アリスの外套のフードが外れ、ブロンドの長い髪が風に揺れる。
旅の中で少しづつ荒れているように感じるが、川を見つけたら水浴びはするようにしている。
それでもやはり傷んでしまうのが、物悲しい。
「そろそろこの髪、切ろうかしら」
「えーダメだよ…綺麗なんだから」
「でも洗うの面倒なのよ?」
外套の首元からフワッと取り出した長髪は、風に揺られ、たなびいている。
毛先が私の鼻に当たって、こそばゆい。
「私はその長い髪、好きだけどなぁ。手入れは確かに大変だろうけど」
「…そう、じゃあまだ伸ばすわ!」
アリスは笑って、再びフードを被った。
そうしてくれた方が、私の気が楽だ。
この旅で傷んでいく髪を見るだけでも悲しいのに、短髪にされてしまってはその髪を見る度にこの旅についてウジウジと考えてしまう。
「アリスは、そのままでいてよ。私の数少ない拠り所なんだ」
「…もー。辞めてよね」
怒られてしまった…アリスはフランシスカの方を見ていて顔が見えないが…どの程度怒っているのか読み取れない。
この話はやめた方がいいな。
それからしばらく進み、北門が見えた辺りで、北門から手を振っているクロエの姿が見えた。
「とりあえず、問題ない。もう出たってさ」
「出た…ってことは?」
「うん、来てたみたい」
──
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