第28話 旅路①


積み込みの後アリス達と合流して、毛布を1枚買って荷物に被せた。

馬車には元から布製の帆が掛けてあったから、閉めればある程度匂いは防げたが、念の為村の中で売っていた毛布をかけた。

その上に多少藁をかけたが…匂いがうつって馬が食べなくなっても困るので、藁の残りはいくつかの袋に分けて荷台の後ろに括り付けた。


フランシスカまでは、来た時は大体4日掛かった。藁はとりあえず問題なく持つだろうから、フランシスカで補充しないとどちらにしてもキツイな…


そんなことを考えながら、チェスプリオから続く街道を進む。

少しだけサマリロの方に戻って、来た時の道を進む。タイムロスはあるかもしれないが、道は悪くなかったのでこちらの方がいいだろうという判断だ。


「…いやぁ、キツかったねぇ」

「ほんとにね…村ってもっと家畜の匂いとかがするものだと思ってたわ」

「実際、リーヴィルはそんな感じだったしね…なかなか特異な村だよ、アレ」


村を出たのは昼前くらい。フランシスカからサマリロに来た時は朝早くに出ていた筈だから、大目に見て5日くらいか。

来た道を戻っているだけなので迷う心配がないのは助かる。アリスの頭の中にこの辺りの地図は詰め込んであるようだし、本当に助かる。


「そういえばアンナ、最近服が結構破れてない?」

「…まぁ、枝を集める時にちょっとね」


…アリスのそんな疑問に、クロエの方を見ながら答える。相変わらず実戦形式での特訓は続いており、生傷が増えるばかりだ。

アリスに内緒でしている以上、あまり傷を増やされても困るのだが…多少なりとも初日より避けやすくなっていたように感じていたから、止めるように言うことも出来ない。


力をつけるのに必要なプロセスなのだから、やむを得ない。クロエはアリスの向こうであははと笑っている。


「今日からはアリスも枝を集めて寝ないとだから…ちょっと手伝ってもらうかも」

「勿論よ。むしろ今までごめんね」

「いや、私が馬車の中が寝心地が悪いだけだから。アリスも外の寝心地にハマるかもよ」


実際枝や草を集めて作る天然のベッドの寝心地は悪くない。石造りの街道から少し外れれば土があるから柔らかいし。


「そろそろ冬季だし、フランシスカより北は冷えるからね。雪国での寝方も考えた方がいいかもよ?」

「確かに…それもそうだね」


雪国か…リーヴィルでも冬季は雪が降っていたが、そんなに深く積もる事はなかった。それに、わざわざ外で寝ることは無かったし。


となるともう何枚か毛布も必要か…それから積雪を避ける手段と…結構買わなければならないものが多そうだ。


「後は…盗賊だね。ギルドじゃなくて、野良の」

「ああ…やっぱりいるんだ」


クロエの話では、盗賊ギルドは非合法な依頼でお金を得ているが、それでも無差別に馬車を襲うとかはしていないらしい。

盗賊ギルドもギルドと言うだけあって他のギルドとも依頼を貰うなどの付き合いがあり、そこまで好き勝手は出来ないのだ。


「まぁ、それを見越してついてきたのもあるからね。所謂用心棒ってやつだ」

「そりゃあ助かるね」

「ありがとう!クロエさん」


本人の真意がどうあれ、助かっているのは事実だ。私が力を付ければさらに守りは強固になるだろうし…

とりあえず私が本格的に戦えないうちは、ついてきてもらわないとおちおち寝ることも出来ない。


「…ねぇアンナ、あの村を一度見てみることは出来ないかしら」

「…それは、どうして?」

「お墓を…建てたいの。お母様やお父様だけじゃなくて、村全体の」


…アリスの言いたいことは分かる。もしも村があのままなら、そこら中に遺体が転がっているだろうし、時間も経っているから腐ったりしていることだろう。

だが…


「…死体は危ない感染症をばら撒くこともある。あんまり深入りは…」

「大丈夫。遠くで村が見える位置に、ね」


…まぁ死体を触るわけでも近付くわけでもないなら、いいか。


「じゃあフランシスカに着いたらクロエに見て来てもらおう。スミス達がまだいる可能性もあるからね」

「分かったわ。クロエさん、お願いしてもいい?」

「いいよ。それからフランシスカの中もよく確認してから入らないとね」


自分の生まれ故郷に入るのに偵察がいるとは、なんとも不便な暮らしだ。


来た時に通った曲がり道を曲がって、石畳がなくなった。ここからは一応整備されているだけの道になる。

他の馬車とすれ違う可能性もあるから、気を付けて進まないと。最悪、スミス達にも。


──

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