第27話 チェスプリオ


「もうそろそろチェスプリオに着くよ」

「あら、そうなの?」


サマリロを出てから2日後の朝。

昨日の夜も日付が変わるくらいまで進んで、クロエの特訓を受けて…朝方起きて少し歩くと、もうすぐ最初の目的地とのことだ。

2日ならまぁ…予定通りか。


「ねぇクロエ、チェスプリオってどんな村なの?」

「ん、そうだね…まぁ特徴のない寂れた農村だったよ。元々はね」

「今は?」


なんだか随分と含みを持った言い方をする。

御者席の真ん中に座っていた私をアリスの方に追いやりながら、クロエも腰掛けた。


「オーマの栽培と輸出を始めてから、羽振りが良くなったんだよ。元々サマリロが近いから村にお金さえ入れば発展は早いしね」

「へぇ…オーマって儲かるのね」


香辛料が不足しているのか?身体が冷えがちな北の方では重宝されている…のかも知れない。

となると結構辛いものなのかも…もしくはコショウの代わりのような匂い付けとか…いやでもそれなら…


「…アンナが考え込むモードに入っちゃったわね」

「そういうの、口に出して共有した方がいいと思うけどなぁ…」

「ふふ、いいのよ。アンナが共有するべきと思ったことは、ちゃんとしてくれるもの」

「そうかい?まぁ、アリスが言うなら良いけどさ」


隣でコソコソと話をしているのが聞こえていたが、内容は聞き取れなかったので反応しないことにする。

馬車が街道に沿って登り坂を登り切った所で、道の先に村が見えた。

外壁は石造りの塀で囲まれ、塀の上から外や中が見られるような構造になっていて…

中身はよく見えないが、見えた限りでは石造りの家。それも結構な大きさのものがいくつも並んでいるのが見えた。


「…あれ、村なの?」

「街になりかけている…ってとこかな。商業ギルドから周囲の土地を買いまくったって聞いたから、ここからさらに発展していくんじゃないかな」


いや、でもこりゃあ…栄えすぎじゃないか?たかが香辛料でこんなに稼げるなんて、まるで宝の山…ってことなのか?


石の壁を超えると、中が見えてくる。

村の中は反対側の出口まで1本の大きな道路を敷いて、道路沿いにズラっと石造りの建物が並んでいる。そして家で囲まれた向こう側、石壁沿いは全て畑になっているのが見える。

これは…今の段階では、7:3で畑が多い、くらいの配分になっているように見える。


リンドに聞いていた積み込み場に向かうと、地面に石を敷いて線を引き、それに沿った場所で積み込みをするような広場になっていた。私達の他にも何台かの馬車と、それに葉っぱを積み込む若い男達の姿が見える。


「…なんか、臭いわね」

「アリス、あんまり口に出さない方がいいよ」


村に入った段階で多少感じていたが、この広場に来ると特に感じる。とにかく鼻を突く草の匂い。もっと薄ければ緑のいい匂いと表現出来たかもしれないが…広場を進むほどに臭いがキツくなっていく。


「…すみません、サマル卿からの仕事で…」

「おお、モンタニカだな?あっちに回ってくれ!」


広場の受付にいた男性に声を掛けると、広場の奥へと案内された。結構奥だな…


「…クロエ、アリス頼める?」

「了解」


もはやあまり息をしないように喋らなくなっていたアリスを連れて、クロエが馬車から離れていく。

とりあえず見える所に離れていてくれれば、多少は匂いもマシだろう。


「姉ちゃん!こっちこっち!」


手を振る男達の前に馬車を着ける。

明らかに馬の進みが悪くなったのを感じたが…すまない。耐えてくれ


積み込みが始まったので少し離れたところで様子を見る。男達は匂いを気にすることも無く、次々と大量の葉っぱを積み込んでいく。

とりあえず積み終わったら毛布か何かを被せて匂いを抑えるのと…馬車は終わったら消臭しないと使えたもんじゃないな


最悪服を着替えるのも視野に入れて…いやまぁ、気にし過ぎか。

とりあえず匂いが移ったら困るものは御者席に置くしかない。アリスに持っていて貰うか

寝る場所も外に移して…


そんなことをひとりブツブツと考えていたら、いつの間にやら馬車の中は葉っぱがギュウギュウ詰めになっていた。


「よし!いいぜ」

「あ、ありがとうございます」

「大切な荷物だからな。頼んだぜ姉ちゃん」

「はい」


まぁ、村の稼ぎ頭だしさぞ大切な荷物だろう。匂いがきつくなければ私も喜んで運ぶんだがな…


──

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