第25話 モンタニカへ!

「よし、行こうか。」


その日の夜。帰ってから馬車に寄ると、ちょうどリンドとその仲間達が積み荷の詰め替えを行っていた。

私達もそれを手伝って、お金を受け取った。材料の野菜を買い取ってもらったから材料費くらいしか貰えなかったが…時間が無いので仕方が無い。


その後宿屋に戻って着替えや洗濯を終えて、出発の準備を整えているところでクロエが訪ねてきた。

手伝ってもらいながら荷物を馬車に積み込み、宿屋を後にする。

結局宿屋に泊まっていたのは3日程度。銀貨3枚は痛いが、他はもっと高かったことを考えると安く済んで良かった。


「アリス、目的地までって何日くらいかかるのかな」

「そうね…チェスプリオは1日か2日で着くと思うわ。」

「モンタニカは…大体ここからフランシスカまでの倍くらいかしら」

「それにフランシスカとモンタニカの間には積雪地帯がある。馬やアリス達の体調を考えたら、真っ直ぐ行っても8日は掛かるんじゃないかな」


馬車を引いている馬はそれほど速度が出ないので、クロエは隣を歩いて着いてきている。

何かあって馬が走り出しても馬車の御者席には詰めれば3人は乗れるし、これなら特に問題なく旅ができるだろう。


積み込みの時間や休息を考えても2、3日は余裕がある。このまま余裕を崩さずに行きたいところだ。


「じゃあ予定通りチェスプリオに向かって、そこから一旦フランシスカを経由。雪原用の装備を整えて、モンタニカへ…ってルートで問題ないかな」

「ええ、それで大丈夫だと思うわ」


1度フランシスカを経由するのは、アダムに商品の代金を渡すのと…モンタニカの積雪地帯を抜けるのに、私たちの服装では軽装備すぎるからである。

というのも、私とアリスは今までそれなりの温暖地帯を歩いてきていた。しかも南に向かっていたから、上着のようなものは必要なかったのだ。薄着の長袖と半袖の着替えを数枚と、雨外套を1枚ずつ持っているだけで、雪に突入なんて正気の沙汰では無い。


しかし、雪用の装備は値が張るので…アダムのツテで安く買えないかなどと企んだ結果である。


「クロエは冬用持ってるんだっけ?」

「ん、まぁ一応…多少の寒さなら身体動かしてれば気にならないけどね」


アリスの横に置かれた自前のリュックを指さしながら、腕を軽く振って見せた。

クロエは結構、ちゃんとした筋肉があるように見える。特に足と腕。

身体を動かすのが好きなのか…仕事柄なのかは分からないが


「それにしてもアンナ、結構上手に操るんだね」

「ん…ああ、馬?」


馬の操舵にも大分慣れてきた。初めの頃は木の方へ突っ込んだりと散々だったが…

今は真っ直ぐ街道を歩く事が出来る。街道がない所はまだ不安ではあるが…


「まだまだだよ。まだスピードを上げたことないしね」

「あれ、そうなんだ…でも私は力任せになっちゃって馬に嫌がられるから、羨ましいよ」


それは力の抜き方の話な気はするが…

力、か。


「多分私も力をつけた方がいいんだろうなぁ…」


誰に宛てるでもなく呟いた独り言は2人に拾われることも無く、夜空に飲まれて消えていった。


──

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