第24話 どこまでも

リンドと別れてから、私は街の反対側へと急ぐ。今日は早く出るからとクロエに迎えを頼んでいたから、スラムにいる筈だ。


「アリス!」


スラムの中の、マルク達の家のドアを開く。

あまりにも急いで開けたために大きな音が鳴ってしまい、中のアリスとクロエが目を丸くして座っていた。


「アンナ…大丈夫?どうしたのよ」

「ご、ごめん…その、仕事が決まっちゃって…」


クロエが台所から持ってきてくれた水を受け取りながら、アリスに仕事の内容を説明する。なるべく簡潔に伝えているつもりだが…焦りからか、あまり上手い言葉が出てこなかった。


「モンタニカだって?」


説明の途中で、クロエが大声で口を挟む。

机をガッと叩いて立ち上がったから何事かと思えば、急に笑顔になる。


「私も仕事が入ってて、行先はモンタニカなんだ!とは言っても私は荷物を受け取る方だけど」


…それは、偶然。というか、都合が良すぎるような気がするが…


「私は今日の夕方には出ようと思ってたから…よければ一緒に行かないかい?私も馬車があった方が助かるし、アンナも…その、腕があった方が助かるだろ?」


先程からクロエの言い回しがおかしいのは、盗賊ギルドに所属しているのをマルクやアリスに隠しているからだ。

私の時は必要だと思ったから名乗っただけで、本来は盗賊ギルドに所属しているとかは言わない方がいいことのようだ。


アリスやマルクなら信頼できるだろうと思ったが、むしろ逆でクロエが何か失敗して追われる立場になった時に巻き込まれないようにする為だと、彼女は言っていた。


「…アリス、どうかな」

「私も行くわよ。当たり前じゃない」


おっと即答…もう少し揉めるかと思ったが


「今日出るのね?エリナ達は?」

「連れては行けない。信頼のおける知り合いに頼む予定だよ」

「そう…ちょっと話してくるわね」


アリスが階段を上がっていくのを見て、クロエも立ち上がる。2人が行くなら、私も行くかな…


木造の階段をギィギィと音を立てながら上り、すぐの扉を入る。

中にはベッドで横になったエリナと、その隣に座ったマルクの姿があった。


「アンナさん、いらっしゃい。大きな音が立ってたみたいですけど…」

「いや、気にしないで。起こしちゃった?」

「いえ、それは大丈夫です」


マルクに助けられながらゆっくりと身体を起こして、こちらに向き直る。今は大分…落ち着いているようだ。


「エリナ、私とアリス達はちょっと仕事で出なきゃ行けなくなっちゃって…」

「そうですか…寂しくなります」

「ごめんね、エリナ。クロエは仕事が終わり次第、戻ってくるから…」


その言葉にエリナは顔を俯かせた。マルクもその隣で落ち込んだように顔を下げている。


「アリスさん達は…戻ってこないんですか?」

「…ううん、私達もきっと、戻ってくる。クロエよりもだいぶ遅くなるかも知れないけれど…」

「きっと戻ってくるから。だから…頑張ってね。エリナ、マルク」


アリスはエリナとマルクの手を握りながらゆっくりと話を続ける。

クロエは帰ってくる。だが、私達は…


結局、私達は流れ者の旅商人。1箇所に留まる訳にも行かないし…きっと今までよりも遠い場所へ行くこともあるだろう。


「アンナさん…」

「必ず帰ってくるから。心配しないで」


そんな言葉が口から勝手に出てきていた。

根拠の無い言葉、無責任な言葉だったが…それでもエリナの顔は少しだけ明るくなったように見える。


「じゃあアンナ、夕方に迎えに行くから」

「ええ。またね、エリナ。マルク。」

「ありがとう、アンナお姉ちゃん。またね」


それだけ残して、私は部屋を出る。ひとりで帰ろうかなと思っていたが、アリスもそのすぐ後に続いて出てきた。


「…言い方は悪いけどさ、もっとアリスは執着すると思ってたよ」

「まぁ…結局イタチごっこだから。それよりも外に出て薬でも見つけた方が有意義よ。それが私に出来ることだもの…そうでしょ?」

「それに私だって、アンナが拾ってくれたこの命を無駄にする気は無いわ。私はアンナと生きていくって決めたんだから」


アリスは笑顔を浮かべて、私の手を取る。

強く、頭のいい子だと、つくづく思う。


「さぁ、出発の準備をしなくちゃ!一緒に行くでしょ、アンナ?」

「…もちろん、どこまでも」


──

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