第20話 商業ギルドへ

「ここが…商業ギルドか」


次の日。朝方にアリスをクロエの所に預けて、私は1人で商業ギルドへと来ていた。

アリスの方が心配ではあるが…クロエに目を離すなと言ってあるし、とりあえず大丈夫だろう


商業ギルドは綺麗な石造りの建物で、道路沿いに大きな扉が1つ付けられている。

おそらくだが、馬車のまま中に入れるようになっているのだろう。


扉を開けて中に入ると、円形の机の周りに4つ程椅子が置かれている物が左右に…4つずつくらいか?それぞれに人が座って雑談をしている。こちらには気付く素振りもない。

間を縫うように1番奥のカウンターに行くと、受付の女性が奥から現れた。


「いらっしゃ…あら?どうしたの?お嬢さん」

「あぁ、えっと…いくつか、伺いたいことがありまして」


お嬢さん…って言われるほど年齢が離れているようにも見えないのだが…

まぁ16歳が世間的にまだ子供なのは重々承知している。

とりあえずカバンの中からアダムの手紙を手渡し、中を確認してもらう。とりあえずこれで身分の証明は出来ただろう。


「なるほどねぇ、それで?」

「とりあえず、アダムさんの知り合いのリンドさんという方がここにいるらしいのですが…」

「リンドくん…あぁ、あそこの椅子に座ってるわ」


女性が指さす先に座る男性を見る。年齢は…アダムと同じくらいか。

茶色の短髪を生やした彼は、机に置いた算盤さんばんをカチカチと弾いている。

女性が受付から出てきてその男性の方に歩いて行ったので、その後をついて歩く。


「リンドくん、アダムくんの知り合いですって」

「アンナ=ルナールです」

「おお、君がね…話は聞いてるよ。リンドだ」


リンドは握手を求めてくる。握り返すと、ゴツゴツとした手だと感じた。手の表面は固く、ザラザラとしている。


「失礼ですが、農業の経験が?」

「あはは、そうだね。とりあえず座って」


リンドが反対側の椅子を指差したので、そこに腰かける。受付の女性は少しリンドと話をしてから、受付へと戻って行った。


「元は「チェスプリオ」…わかるかな、ここから東へ行ったところの小さな農村なんだけど」

「あはは、地理はあんまり…そこのご出身なんですか?」

「そう。そこの農民でね。もう長いこと農業はやってないんだが、厚くなった手の皮は中々治らないものだ」

「分かります。私も同じなので」


…そこまで言ったところで、一瞬リンドの目付きが鋭くなったような気がした。

元々細い目だが、それがさらに細くなったような…


「早速ですが、少し質問を。商業ギルドに所属する方法と、本籍を決める方法を教えて欲しいんです。本籍を決めたら変更ができるのかどうかも」

「ふむ…変更する予定が?」

「いえ、特にはないですけどね」


そうは言っても、商業ギルド以外のギルドについてイメージが付かないので、今よりも生きやすいギルドがあるならそちらに移りたい

正直、この街でスラムを拡大させる要因になってるとか、あの村を勝手に売買したとか、不審要素の方が多い。


「そうだな…まず所属は、そこの受付でできるよ。ギルドの本籍をどこに置くかについては一応別の紙を書いてもらうことになるけど…ほとんど口約束みたいなものだから、変更自体はすぐに出来ると思う。やったことは無いけどね」


なるほど、別にもっと大きなギルドに行かなくても…いや、ここはファーレス領の首都なのだから、これより大きなギルドは領内にはないのか。


「じゃあここがファーレス領の商業ギルドの…」

「うん、一応本部になるかな。小さいものならほかの街にもあるけど…」

「知ってるかもしれないけど、こことフランシスカは商人の街なんだ。ファーレス領全体で見た時に、フランシスカは大体領の真ん中になる。サマリロは南端になるけど、南には海路があるからね」

「領外への輸送の足になるってことですか?」


リンドが頷く。まぁ確かに、荷物の大量輸送なら船の方が都合がいいのだろう。私の知っている地理に関する微かな記憶では、ファーレス領は東西北が隣の領まで陸続きで、南のみ海を挟んで反対側に別の大陸があったはずだ。

その東西の領まで海は繋がっているので、港同士を船で繋ぐのが効率がいい…ということなのだろう。


「そういうわけで商人が集まりやすいからギルドもサマリロに設置された、というわけ。とは言っても、ここが出来たのは結構最近で…」

「その結果、スラム街が大きくなったと?」

「…さぁ、それは分からないけどね」


…分かりやすく話をはぐらかされた。商業ギルドの中ではタブーな話なのか…

ある程度聞きたいことも終わったし、そろそろ帰らせてもらおう。

ギルドに所属受付だけして…


「ああ、それから…」

「ん?なんだい?」

「コルベールさんってご存知ですか?」

「…いや、知らないな。その人がどうかしたのかい?」

「そうですか。いえ、名前を聞いたことがあったので、どなたなのかなと」


…リンドの目線は動かない。じっとこちらを見たままだ。目が見えずらいというのは、何を考えてるのか読み取りづらい。


「…それで、僕は信頼を勝ち取れたかな?」

「はい、アダムさんのご紹介なので」

「あはは、そうか…商業ギルドには今日所属するのかい?」

「ええ、予定では」

「じゃあ明日の朝にギルドの前においで。僕の商談があるんだが…良かったら、同席しないかい?」


…まぁ、いいか。


「分かりました。是非お願いします」


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