第14話 サマリロ
「はい次…」
あれから二日後、私達の乗る馬車は首都へと辿り着いた。大きな正門にある入門管理所には、長蛇の列ができていた。
しばらく並んで、次は私達の番までやって来た。鞄の中に突っ込んだ手に、力が入る。
「えっと…旅の…商人をしています。フランシスカから来ました。アンナ=ルナールです」
「フランシスカね…身分証は?」
来た。身分証の代わりにカバンの中の手紙を出しながら、「喋り慣れていない演技」を行う。
「あの…サルドさんの使いで…えっと、身分証を作りに来ました」
「身分証を…?」
門番は手紙を開いて中身を確認し、読み終えたら何かの名簿を見比べている。おそらく、ギルドの名簿だろう。
しばらく沈黙が流れた後、門番が顔を上げて、手で合図する。
「スラムのガキか…そこに役所があるから、そこへ行きな」
「はい…ありがとうございます」
よし、入れた。心の中で小さくガッツポーズをしながらも表には出さず、返された手紙をカバンにしまい、真剣な顔で馬車を前へと走らせる。
「ああそうだ。おいガキ」
「…はい?」
「横に乗ってるやつのフードを外せ」
馬車が門を通り過ぎる直前に、さっきの門番に呼び止められた。私はフードを脱いでいたが、アリスはまだ被ったままだ。ブロンドの髪の毛を見られると、面倒なことになる可能性があるからだ。
「…彼女、スラムである仕事をしてたんですけど…どうしても見たいですか?」
私はそう言いながら、空を殴るような仕草をとる。これは道中森の中で考えた作戦。
「…ちっ、早く行っちまえ」
「はい。ありがとうございます」
再び馬車を進ませ、門を通り過ぎた。詳細は省くが、スラムで暴行を受けていた、という設定にすれば、わざわざ痛め付けられた顔を見たがる輩は、少なくとも一般人には多くはない。
ましてや隣に私がいることで、背格好から同じくらいの年代の子供だと思わせることで…通れるだろうと踏んでいた。
作戦は成功した。まさしく文字通り、第1関門突破だ。馬の手綱を握っていない左手に、強い感触が走る。
アリスをふと見ると、赤黒く汚れた顔でニコリと笑顔を浮かべていた。
念の為、森の果実を混ぜて作った絵の具で傷のように見えるように施策していたが、使うまでもなかったようだ。私も笑い返して、首都の道を進む。
馬車が十分にすれ違えるように幅をとって綺麗に舗装された道は、やはり先程までの道とは走り心地が全く違う。見上げれば、大きな建物が所狭しと並んでいるのが見えた。
ここがファーレス領の首都、サマリロ。首都と言うだけあってファーレス領では1番大きく、様々な商人が流れ着く場所だ。
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