第13話 コルベール家


アリス=コルベールは、首都にある大きな屋敷で生まれた。コルベール家は首都でそれなりの力と財力を持つ、貴族の家だった。


彼女の生活は、不自由そのものだった。庭より外に出ることはなく、家の中で全てが完結する。彼女の世界は門扉から先のものだけだったのだ。


お腹が空けばメイドがご飯を持ってきて、食後の暇つぶしを執事が持ってくる。しかし皆仕事中であったため、話をしてくれる人は居なかった。

それは彼女の両親も同じだった。自分の執務室で投資家として生きる父と、その傍らで資料を纏める母。彼らは仕事が第一、家族が第二だった。

世界のルールとして金を持っているものが偉いという物があるが、首都の上位層では特にそれが顕著だった。それ故に人が上位層へ一歩足を踏み入れれば、それ以降はただただ金と地位を求めるだけの機械になる。皆がそういうものであり、彼女の両親もその例に漏れなかった。


彼らが次に始めた事業は、観光地の作成であった。首都の周りは金持ちの人々があらゆる事業に利用しており、土地の物価は大高騰していた。その結果彼らが目を付けたのは、私の生まれ育ったあの村だったのだ。


あの土地一帯の権利をフランシスカにいる地主から勝手に買い上げた彼らは、村へと赴き…そして件の事件が起こった。

そもそも私のような一村民には、村の権利がフランシスカの奴に抑えられていた事すら知らなかったが。


「…って所かな」

「土地の権利…ね」


私達が今通っている道も、山も、林も、恐らくは首都の誰かが権利を持っている。どこの誰がそんな律儀に土地を区分けして分配したのかは知らないが、随分と勝手なものだ。

これは一重に、商業ギルドという物が発展したことによる弊害なのだろう。金を持った人が始める事業の土台として使われる土地を分配し、勝手に値踏みして、それを勝手に売買する。全ては商業ギルドで成り上がる為に行われ、使われるのだ。


商業ギルドは土地、冒険者ギルドは力、魔法ギルドは人々の健康を利用して、それぞれに発展を遂げている。一庶民の私からすれば、本当に迷惑な話だと思った。


「…どうしたの?アンナ」

「いや…私は本当に何も知らないんだなって思ってさ」


馬車は本当に便利だ。どれだけ考え事をしていても、ある程度はこのそれほど綺麗に舗装されていない道を勝手に進んでくれる。

その程度のことすらも、私は知らなかったのだ。村に住む一庶民であり続けた私には、知る由もなかった。


アリスと飛び出してから、新しい知識の連続だ。村で見ていた地図よりもこの世界は大きく、沢山の人の考えで成り立っていることを改めて実感した。


「…進もう、アリス。いつか落ち着いて暮らせる日々を手に入れるために」

「…ええ、勿論」


──

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