第10話 通貨

※いつもご愛読ありがとうございます。

通貨の単位について読者の方にわかりやすいように記載すると、

銅貨:500円

銀貨:1万円

金貨:20万円

という基準で執筆しております。


──


あの夜の感覚通り、それからの日々は目まぐるしく動く。

まずはノウハウを覚える。仕事のピーク時以外と、仕事終わりにアダムに教えてもらい、帰ってからもメモをぎっちりに書き込んだ紙を読み返す。商人としての知識は一切なかったため覚えることは多かったが、新しい知識の吸収には確かな楽しさを感じた。


そして、移動手段の確保。アダムの伝手で格安で買えたが、やはり馬車は安くは無い。それに、これからの餌代だのという維持費もかかるだろう。

商業ギルドの人に相談をした結果、昔使われていた古い馬車を格安で譲ってもらった。アダムが払ってくれそうになっていたが、そこまで甘えていられないと貯めたお金から出した。

馬は手が届かなかったので、結局出してもらうことにはなったが…「俺の金から出した給料なんだから大して変わらねぇよ」との言葉に甘えさせてもらう事になった。無論、天引きでお願いした。


アリスはフィリップさんの元で料理のやり方や、この世界地図、街の特徴などを覚えていた。首都に行くだけであればさすがに看板などで整備されているだろうから分かるだろうが、それ以外の街についての情報が、私たちには不足していたからだ。


「アンナ、この銅貨がどういう仕組みで動いてるか分かるか?」

「動いてる…?」


昼休憩前最後の客に弁当を渡して、受け取った銅貨をじっくりと眺める。

円形で、片面に草なのか花なのかの模様が刻印されたごく有り触れた貨幣だ。

手のひらに置いても机に置いても、微動だにしている様子は無い。


「そうじゃねーよ…金の動きだ。どこから出て、どこに行くか」

「ああ、そういうことですか」


…よく考えてみれば、その辺のことについて全く知らない。

私が生まれた時から既にあった貨幣。私はただその使い方を習い、ルール通りにやり取りをしてきたに過ぎない。


「いえ、全く」

「だよな。商人になるんだから、よく覚えときな」


アダムの話を紙にまとめる。

まず、先日聞いたギルドが関わってくる。冒険者ギルドが開拓した洞窟の中の資源の権利は、冒険者ギルドが所持している。

洞窟を構成する土や石には、魔力が含まれているらしい。その魔力が凝縮されてできた鉱石が、村の大人達が使っていた魔力の詰まっている石であり、この貨幣の大元の物質となる。


次に、一旦魔法の話になる。

私はアリスの魔法を見るまで魔法に興味は無かったが、魔法にはその魔力が必要で、私たちが吸っている空気中にも微量ながら含まれているらしい。

空気中の魔力を集めただけでは精々小さな火種を作ったり少量の水を作り出したりが限界だが、魔力は呼吸をすることによって私達の体内に少しづつ蓄積されていく。

そして体内の魔力を体内で変化させ、体から放出して空気中の魔力にぶつける。その時の力で火が起きたり、水が出たりするのだ。


アリスの回復魔法のような対象に触れることが出来るものは更に分かりやすく、魔法を掛けられる者の体内に溜まった魔力に自分の魔力をぶつけて、傷などを治癒したりするものらしい。

なので本来は洞窟で取れた鉱石や魔物の血液を加工した魔力を多く含む薬を飲んで体内の魔力が枯渇しないようにしながら行うものらしい。山の中では補給無しで使わせてしまったから、彼女は酸欠のようなものに陥っていただろうとの事だった。そういった素振りが全く見えなかったから、気にも止めていなかった。悪いことをしてしまったなぁと思い悩む。


さて、ここで話を貨幣に戻して、先程の鉱石が何百個と大量に魔法ギルドへと運ばれる。そしてその中に宿る魔力を使って、何人もの魔術師が複雑な加工を行っていき、今の貨幣の形になる。その時に溜まっていた魔力の量によって、少ない順に銅貨、銀貨、金貨に色が変わっていく。なので銅貨が一番安価であり、一度の加工で多く作成できるらしい。


そして最後にその貨幣は商業ギルドへと運ばれ、流通している貨幣状況、相場状況などを踏まえて流通させる貨幣の量を定め、職人が貨幣の模様を刻み、商業ギルドの商人達を通じて市場へと出回る。


鉱石自体は多く採れても、それを調達して鉱石のまま納品されるという特異な状況。

魔術師が何人も魔法を使って何重にも掛けられる魔法と、商業ギルドの帳簿による総量の管理。

個人や中小規模の団体で行うには必要な人員が多く、状況を整えるのにコストがかかりすぎるため、貨幣は偽造されず、現在は商業ギルドの管理する通りの相場環境が整えられている。


「…ってのが、貨幣の出処だ。それを基準に商業の相場が考えられるから…例えば、この皿なんかは土に含まれる魔力だけで作れるから安価だし、木材や紙、食べ物なんかは魔力での加工が難しいから、それなりの値段になる」


アダムは店で使っている皿を指差しながら、そう教えてくれた。なるほど、相場なども特に気にしていなかったが、その辺も偉い人が入念に調整を行った結果らしい。


「例えばお前が持ってるその紙は、木の皮を加工して作られる。これは魔力じゃなくて色んな街の職人が加工してるが、それなりに安価で流通してるから銅貨1枚で10枚程度買える。これは木が枯渇しなければ基本的には価格が変動しないから、これが基準になって相場が考えられる。ウチで言うならパンは3つで銅貨1枚。シチューと合わせるならパン1つとシチューで銅貨1枚だ」

「食いもんの売値になると原価とか場所代とか色々あるから今全てを解説はできねぇが…要は紙の値段を基準に、銅貨20枚で銀貨1枚で計算していくってのが今のファーレス領の経済状況だ」


この話をしている時でも、アダムの手は仕込みの食材を切るのに動いている。そのマルチタスクは大したものだ。羨ましい。

フィリップさんの宿屋は、今はアリスの稼ぎで賄えているが普通は1泊銀貨2枚。つまり、紙が400枚かパンを60個って事になる。

他の宿屋はもっと高かった。下手をすれば銀貨5枚とか6枚もあったし


「これを領地毎にある商業ギルドが定めてるって訳だな」

「アダムさんの店は他と比べてどうなんですか?」

「ウチはフランシスカの近くの麦畑と縁があるから、これでも相当格安だよ」


なるほど…やはり横の繋がりが大事…か。

そういうのは苦手だから…困ったものだ。


──

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