第9話 行商

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それから5日後。街に着いて、9日が経った。

2人分の首都への旅費くらいは、溜まっただろうか。勿論低品質の馬車で移動するなら、だが。

仕事にも随分と慣れて、軽い料理くらいならするようになった。


「前に言ってた話だけどよ」


洗い場で皿を洗っていた私を店の裏側に呼び出して、タバコをくわえたアダムは言う。

結構スパスパ吸ってるな…高級趣向品に依存性があるというのは、困りものだ。


「首都の商業ギルドに俺の友人がいてな…そいつに軽く相談をしてみたんだが」

「お前、行商人やってみないか?」

「…へ?」


アダムの提案は、渡りに船…いや、船なんてレベルのものではない。

要するにアダムの店の第2店舗として、商品を持って旅をしてみないか、ということだった。


「なんでそんな…」

「いやつまりな、俺の店舗を拡大する為に、スラムの子供を捕まえて行商人をさせる…っていうシナリオな訳だ」


アダムの信用については、受付から商業ギルドに問い合わせれば確認できる。その信用を利用して、そのシナリオ通りの手紙を書き、首都の身分証発行施設の受付へ渡せば、そこまで詳細な身分確認はされないであろう…という事らしい。


「それは…本当にありがたい申し出ですけど…いいんですか?」

「勿論、タダじゃあない。行く先々でウチの店の宣伝をして貰って、店を大きくするってのが狙いだ」

「…メリット、釣り合ってます?」


口頭宣伝でどれだけの利益が増えるのか。それにこの街で店をやっているアダムにとって、他の街で宣伝をしたところでこの街で客が増えるとは思えないのだが…


「はぁ…あのな、アンナ」

「はい」


呆れ顔のアダムは、煙を吐く。この光景、最近よく見るなと感じながら、返事をする。


「正直な話、俺はお前らに同情してる。まだそんなに大きくもないのに、訳ありでフランシスカに来て、仕事も身分証もないような話を聞いちゃあ、同情すんなってのが無理な話だ」

「…はい」

「でもな、アンナ。この話はそれだけじゃあない。お前のよく考え込む癖は、商人に向いてると俺は思う。出会って数日で何を言ってんだと思うかもしれねぇが…」

「これは本当に、俺にメリットがあると見込んでの話なんだ」


…驚いた。この数日で私は随分とこの人の信用を勝ち取れていたらしい。それほど大したことはしていないと思っていたが…

と、言うところまで考えて、やめた。この話はこれ以上、私が何かを言うべきでは無い。


「…お話、ありがとうございます。かなり前向きに検討します」

「おう、よろしくな」


ありがたいことに、ひとつの突破口が見えた。これは私達にとってあまりに美味すぎる話だ。乗らない手は無い。


──


「その話、本当?」

「うん」


仕事を終えて、宿屋へと戻って1番にアリスに事情を話した。話を聞いたアリスは驚きながらも、目を爛々と光らせているのが表情から伺えた。


「…アンナは、どう思う?」

「これ以上ない、とっても美味しい話だと思う。盗賊ギルドに頼らないという方針なら、これしかないと思う」


なにより、あと何日ここに居られるか分からない。というより、居られないと分かってから…つまり、街で村人を見かけたりしてからでは遅すぎる。

割と途方に暮れかけていた頃に来た話だったからこそ、乗るべきだと私は思う。


「アンナがそれでいいのなら、私は全力で協力するわ」

「…ありがとう」


それならばまずするべきは、荷物を纏めて、ノウハウを叩き込み、一刻も早く旅立つことだ。

これから忙しくなりそうだと思いながらも、見い出せた活路に心躍る確かな感覚を覚えていた。


──

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