第148話 かずやんの憂鬱
世界ランキング1位カ・マセの敗北後、世界ランキング1位の武蔵境と、2位のかずやんに挑もうとするものは出てこないようになった。
世界ランキング1位で不敗の男と呼ばれた探索者を一撃で沈めた武蔵境と、前人未踏の深淵層を踏破したかずやん。
既存ランカーの実績と比較しても力量差がありすぎて、挑みたくない気持ちはわからなくはない。
特に2位のかずやん…深淵層の攻略配信を無料公開したうえで、倒したモンスターを喜々として食べる配信をするなんて狂気の沙汰としか思えない。
それだけでも十分異常なのに、深淵層まで踏破してしまったら、もう手が付けられない。
会議室の一室、世界ランキング運営委員会の面々に沈黙が訪れる。
3位から10位まで不戦勝したかずやん、長老の弟子とか呼ばれていた日本人探索者が1位を一撃でのしてしまった。
このままだと世界ランキングの存在が危ぶまれてしまう。
「どうしましょう?3位以下を強制的に1位と2位にマッチングさせますか?(英語)」
「戦う前に逃げだしたヤツらを舞台に立たせたところで、実力以下の力しか発揮できんし、観客もバカじゃないそんなつまらない試合見るわけがないだろう(英語)」
「そうですよね…どうしたものでしょう(英語)」
委員会のトップはどうしたものかと考えるが…ただ幸か不幸か1位と2位の対戦カードが残されているのは救いかもしれないと考えるようになっていた。
こうなったらこの一戦で稼ぐだけ稼いで、とりあえず二人は殿堂入りにして新生世界ランキングを始めるしかない。
正直、この数日で世界ランキングのランカーに対しての魅力は減ってしまった。
しかも…だ。
稼ぎ頭のカ・マセまで不在になってしまった。
現行の世界ランキングは最後に二人に稼ぐだけ稼いで、あとは残りのメンツで立て直ししていくしかないだろう。
あり得ない戦闘を目の当たりにしたことで、一時的に魅力が下がったように思うかもしれないが…。
このあと目に触れる機会が減れば、その印象も薄れていくだろうし、なんといってもSSSランク探索者の戦いだ。
現実的な戦い方は探索者たちの刺激になり、一般の観客にも十分魅力的に映るだろう。
大体の方針は合意できたが、1位と2位とのランキング戦での問題は…二人を戦わせる箱がないということだ。
今までの箱に押し込めて、SSSランク探索者を護衛に着かせたところで…守り切るのは困難なのが目に浮かぶ。
人外同士がぶつかれば、会場どころか町一つ吹き飛んでしまうかもしれない。
だが、圧倒的に広いフィールドで、壊しても影響の少ない場所…そんな都合の良い場所なんて…。
…ああ、あるじゃないか。
コロシアム型のダンジョンを貸し切りにして、無観客オンライン限定配信にはなってしまうが提供すればよいだろう。
いや、中層、下層辺りの吹き抜け式コロシアムだったらば、自己責任で席を設けることもできる。
鉄は熱いうちに打てという。
日本のギルド本部に連絡して、1位と2位のマッチングをする旨を伝えた後、早速広報活動に励むことにした。
後日談にはなるが、このタイトルマッチのチケット売上はオンライン配信限定にも関わらず、いままでの世界ランキング戦を大幅に上回る記録を残した。
また、世界ランキング賭博についても過去類をみないほどの盛り上がりを見せることになったのは別の話だ。
ちなみにオッズは、深淵層を踏破したかずやんのほうが期待値が高いという逆転現象が生じていた。
~~~
頭を抱えながら事務所の机に突っ伏していた。
深淵層を踏破した余韻を噛みしめる暇もなく、四ツ谷さん・神田さんペアによる尋も…質問攻めを数時間受けて、げっそりしつつも帰ろうとしたら、最後に一報が入ってきた。
…世界ランキング1位とのタイトルマッチ決定――
戦うことなく、いつの間にか2位に浮上していたというのも驚きだがそれはまだいい。
ただ…マッチング相手が問題だ。
「なんで…武蔵境さんがランキング1位なんだよぉ~」
大きなため息をついた。
あの人世界ランキングとか絶対興味なかっただろう。
誰だよ。舞台にあの化け物を引きずり出したの…。
「くしゅん!誰だ俺の噂をしたのは!?(英語)」
敗戦後祖国にとんぼ返りした戦犯カ・マセは敗北後に世界ランキングの引退を発表、今後は探索者を専業に活動していくとのことだった。
『今の世界ランキング1、2位は東洋…いや世界で類を見ないレベルの化け物だ。あの2名に勝てる探索者を知らないし、知りたくもない。俺は残りの探索者生命をランキング戦ですり減らしたくはないんでね。世界ランキングはここですっぱりと引退させていただくよ(英語)』
彼の一言は世界を震撼させた。
ダンジョン後進国の日本からポッと出の2名のSSSランクが、ダンジョン先進国で世界ランキング不敗だった男の戦闘力を上回っているという事実。
そしてその後、かずやんの深淵層踏破の偉業を目にして人々は確信した。
日本はもうダンジョン後進国ではない。
ダンジョン先進国になったのだと……。
「パイセン…なに寝てるんっすか?」
あぁ…心ここにあらず、ふらふらと会社に戻った俺は帰ってきてから机に突っ伏していた。
「これが寝ているように見えるのか!?」
「んー…漏れるのを隠せないレベルの悲壮感漂っているっすねー」
「わかるんだったら言うなよ…」
ギルドへの一報と、同タイミングで様々なメディアで報じられた世界ランキング1位と2位のタイトルマッチ。
辞退は許さんぞ?と圧しか感じないよね!
「で、勝てるんっすか?」
「いや…普通に考えて無理だろ?日本…いまや世界最強の探索者だぞ…」
「パイセン深淵層踏破したじゃないっすか。まあ相談もなしに突っ込んで行ったんで社員一同は怒ってるというか呆れてるっすけど」
「それは謝っただろ。武蔵境さんは配信も報告もまったくしないけど、あの人ならあのレベルのダンジョンは余裕で踏破済みだよ。実は新宿ダンジョンもかなり進んでます…なんて言われても驚きはしないレベルだ」
「深淵層踏破者にそう言われるとか…化け物っすねー」
頬を引きつらせるはじめ。
「化け物なんだよなー…」
と、頭を抱えていても話が進まないので思考を切り替えることにした。
まあ…こうなったら、やれることをやるしかないよね。
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「★★★」「ブクマ」「コメント」いつもありがとうございます!
お久しぶりです!
まだ落ち着いてはいないのですが、少し前に書いた文章をようやく見直す時間が取れました。
コメント確認が追いついていないので、時間を取って確認させていただきます!
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