第145話 かずやんの春休み(15)フロアボス
特に体力の消費もなかったので、そのままの流れで次のフロアに足を踏み入れることにした。
到着したのは病院の屋上
ただし…柵の先に地面は見えない。
下から見上げた病院の屋上と、屋上から見る地面は異なるということだろうか?
そう考えると…ダンジョンというのは不思議な空間だ。
まあ…そんな感想に浸る余裕もないわけだが…。
気配を感じた俺はとっさに元いた場所から遠ざかると、俺を薙ぎ払おうとした何かが通り過ぎていく。
「おぅ…二足歩行のよぼよぼ狐ですね…」
<よぼよぼww>
<
<さっき通り過ぎた何かもあの狐がやったのか?>
<うーん…これがフロアボス?肩透かしやな…>
言いたいことはわかる。が、見た目はこんなだが…フロアボスだ。
油断せず、出会いがしらに氣の刃を放つ。
そして…幸菴狐がサクッと切れて…霧散した。
「はぇ?」
<えっ…>
<えっ…>
<えっ…>
<えっ…おわり?>
<マジ?>
ポカーンっとしていたところに、頭上からさっきと同じ何か唐突に振り下ろされる。
腕で受け止め、なんとか払い飛ばすが…、ずっしり重い一撃に腕がしびれた。
とっさのこととはいえ、腕が折れなかっただけよかったか…。
するとどこからともなく幸菴狐が現れて、そしてよぼよぼの口元がニヤリと歪む。
これは幻想か?
距離を詰めて短刀で切り裂くと、幸菴狐を切った手ごたえを手に感じた。
感じた瞬間…その幸菴狐は霧散する。
確かに俺の手には切った感覚が残っているが…。
気配を感じたところへとっさに短刀を振り下ろすと、ガキンッと重い衝撃。
今回は弾き飛ばさず、受け止めようとしたが…攻撃を受け止め切った時、元居た場所から結構遠くまで移動していた。
それは白くつややかな尻尾だった。
そして元をたどると…。
九尾の尻尾を持つ真っ白い狐が現れた。
サイズはフェンリルより少し大きいが、狐の愛くるしい顔とは程遠い、目元がキリッと眼力が強く、牙むき出しによだれがだらりと垂れていて…野性味溢れている。
幸菴狐と比較しても程遠い姿…うーん幸菴狐どこいった?
だがその巨体は襲い掛かってくるでもなく…スーッと消えると、そこに幸菴狐が現れる。
うーん、これは…み〇わり人形か?
姿を変えて、不意打ちする戦闘スタイルなのか?
…あの見た目で?
腑に落ちないが、とりあえず氣の刃で幸菴狐を切ろうとしたが、幸菴狐の尻尾であっさりとはじかれた。
「えっ?」
<ま?>
<さっきはサクッと切れたよな?>
距離を詰めて、短刀を振り下ろそうとしたが、その速度より早く尻尾で腕が跳ね上げられ、がらりと開いた腹に突如現れたデカい尻尾が叩きつけられる。
とっさに氣の盾で防ごうとしたが、盾ごと吹っ飛ばされた。
「氣の刃も短刀も…弾かれましたね」
<えええ…よぼよぼの狐だったような気がするけど…>
<なんか少し若くなってないか?>
<たしかに…>
言われてみると、頬のしわが減っているような…?
また狐が姿を現しては…幸菴狐が増えていく。
1匹、2匹…出てくるたびに手を変え何とか倒していくも、強くなっていく幸菴狐。
そして7匹目の幸菴狐は…よぼよぼの狐とは程遠く。
若々しく、筋肉も隆々だ。
この幸菴狐と戦い始めてからは、突然襲ってくる尻尾の攻撃が止んでいた。
察しの悪い俺でも…流石に理解した。
幸菴狐は九尾の狐の尻尾が姿を変えたものだったのか…。
最初の2匹と、その後の7匹で九尾というわけだ。
ダンッっと地面が割れたと思うと、幸菴狐が目の前に迫り、前足を叩きつけてくる。
「うぉっ!?」
ゼロ距離から突然加速する前足を手のひらで受け止めたところに、前足に視線を逸らせたうえで、本命の後ろ足で蹴り上げてくる。
動物特有の鍛えられた足から放たれた一撃は、氣の刃のように衝撃波を発生させて俺に襲い掛かる。
その衝撃波を、瞬時に作った氣の塊をぶつけて爆散させ、煙の中から姿を現した足を頭突きで払い落とした。
<ひっ!?>
<いやいや…まさかあの速度を頭突きで抑えるって…>
<ミスったら顔吹っ飛んでるだろ…>
<ミスらんでも一般人は顔吹っ飛んでるわ!>
<幸菴狐も口元ヒクついてるぞ…>
<決まったと思ったんだろうな>
掴んだ拳を離さず、力任せに腕を振り回して幸菴狐を地面に叩きつける。
衝撃で一瞬止まった動きを逃す気もなく。
顔面にかかとを落とした。
ズドンッ!
衝撃で地面が割れる。
足を退けると白目をむいた幸菴狐がそこにいた。
霧散しないことから…最後の1匹は本体でもあったようだ。
ただこれだと可食部が…と不安になっていると、ボンッっと破裂音がして元の九尾の狐の姿に戻るのであった。
<えぐい結末…>
<倒したら元の姿に戻るのか…>
<これ本当に倒したんだよな?>
<かかと落とし…破壊力エグすぎ…>
<
<まじか…>
うーん…九尾の狐のまま戦えばよかったのでは?と思ったりしたが…。
尻尾8本失い迫力不足のその姿を見るに、8回で相手の攻撃スタイルを分析しつつ弱らせていって、最後の1回で確実に仕留めるという戦闘スタイルは案外悪くないのかもしれない。
実際のとこと氣の刃や短剣の攻撃を最初のうちで無力化されてしまったので、非常にやりにくかった…。
「いやー!ではこの…うーん…狐を食べますか!」
<こうあんぎつね…な?>
<倒したモンスターの名前ぐらい覚えてやれよ>
<コメント欄の漢字読めなかったんだよ。許してやれよ>
<所詮モンスターですし、覚える価値もない(キリッ>
<【666円】「絶許」絶許!絶許!絶許!>
<漢字読めなくて悪かったな!絶対に許さない!>
<まさか絶許氏も読めなかったのか>
<これは…荒れるぞ?>
「念のためですが…次の階層はなさそうですね」
不穏なやり取りをあえてスルーして話を進める。
<ということはやっぱりさっきのがフロアボス>
<って、ことは…>
<【30,000円】深淵層突破!!!!>
<【5,000円】ヤバい、まじえぐい偉業じゃん>
<【50,000円】おめでとー!!>
<【50,000円】深淵層突破おめでとー!!>
<【10,000円】マジですごいっす!>
<【50,000円】「パンプキン」深淵層突破おめでとうございます!>
<【50,000円】「姫っちゃん」師匠!深淵層突破おめでとうございます!>
<【50,000円】「はじめ」今日ぐらい祝うっすよ。>
<おぉ…いつものメンツだw>
<そういや…アレってかずやん知ってるのか?>
<アレ?>
<あー…アレか…>
「あれ?って何ですか?何かあったんですか?」
<かずやんはまだ知らなくていいよ>
<【50,000円】そんなことより深淵層突破おめー!>
…なんかすごい誤魔化されている感があるな。
と思いながらも、狐を解体する手は止めない。
さーって、鬼と狐でパーティーするぜ!
…うん、これらの肉って食べられるんだよね…?
―――――――――――
「★★★」「ブクマ」「コメント」いつもありがとうございます!
さあ…ようやく深淵層突破!
新しい食材ゲットできたー…長かった
次回は飯回!
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