第143話 かずやんの春休み(13)進化

廃病院とはいえここは病院だ。

探索を進めていく上でずっと気になっていたのは、このダンジョン上に進むのか、それとも下に進むのか…だ。


そう思っていた疑問も目の前の階段が答えを教えてくれる。


階段は続いていた。


<まさか下に進むのが一般概念だったダンジョンが…上に進むのか…>

<一体このダンジョンどういう造りになってるんだよ…>

<訳が分からんってばよ>


上に続いている階段をみて思い出す。

この廃病院の外観を…。

残り2層…それで深淵層も終わってしまうのだろうか?



2層目はシンッっと静まり返った通路、その奥から…

ドロッと…ゼリー状のモンスターが近づいてきた。

こいつは…スライムか?


「スライムにしては…色が毒々しいですねー」

紫色したスライムゼリーの中を、赤色に発光するコアがうねうね動いている。


…色からもわかるように流石に…食べられない感が伝わってくる。


距離を活かして氣の刃を放ちコアに一刀を入れようとするが、周りのゼリーが刃をはじいてしまいコアまで届かなかった。


深淵層に来てからというもの…氣の刃でダメージがまともに入らない。


その後も何度か氣の刃を放つも焼け石に水、ゼリーにはじかれるだけに終わってしまった。



そうこうしている間にスライムに距離を詰めらてしまったので、短刀でコアを一閃する。

スパッと切れたゼリー状のそれは水のようにどろりと溶けて地面に吸い込まれていった。


「うーん…スライムを倒すにはコアを切るしかないんですが…、コアを切ると何も残らないのが残念ですね」

<紫色のスライムってだけで…メガスライムと比べても小さいし、全く強そうに見えないんだが…>

<いやー…そいつバブルスライムって言って、その肌に触れれば肌がただれて猛毒に冒されるらしいぞ?>

<しかもその毒が複数の毒が混じってるとかで湧き水でも瞬時に治らないらしい。探索中に毒食らったらヤバイだろうな…>

<ただかずやんの場合は…触れる前に斬る(キリッ>

<脳筋乙ww>

<しかし氣の刃弾くからなー…SSSランク探索者じゃないと勝負にならないだろうな>

<ただ…最近氣の刃弾かれすぎだよね>

<…それだけ相手が強いってことじゃないか?>


うーん…視聴者も氣の刃の不甲斐なさを気にしているようだ。


『武器に飲まれるでないぞ?』


こんな状態になって今更だが…長老の一言を思いだす。

ここ最近は、氣の刃がで…長老から受け取った瑠璃刀るりとうの性能に頼り切ってしまっていた。

これは…反省しかないな。



だが短刀をずっと使い続け様々なモノを切ったことで、短刀を脳内で正確にイメージできるようになっていた。

物は試しだ…短刀の鋭利なキレ味を、刃の細部を氣の乗り方をイメージしていく。


刃のイメージが意識に定着しようとしたとき、スライムを倒したときの音に反応したのか、ダンジョンの奥から牛鬼が1、2…5匹前方の通路を埋め尽くすように出現する。


<いやいや…普通に恐怖映像なんですが…>

<さっきの牛鬼もここで狩られたものだったのか>

<いやいや…そこじゃないだろ5匹って普通にヤバくないか?>

<かずやんがブツブツ言って立ち止まってるけど…>

<おいおい…、どうしたかずやん>


「うん!イメージが出来ました。丁度いい食材が目の前にいるので…改良版氣の刃を御披露目しますよ!」


イメージするのは瑠璃色の刀身、鋭利なそれはアダマンタイトをも軽々と切り裂く。


氣でイメージした刀身に、さらに氣を纏わせてそして…放つ!!


廃病院の通路に風が吹き抜ける。


こちらに向かって走っていた牛鬼の群れがその場でピタリと縫い付けられたように立ち止まる。


自分の身に何が起こったのか理解できないでいるようだ。


「よし…、想像通り良い仕上がりですね」

<は?>

<えっ?>

<どういうことだってばよ>


目の前の牛鬼たちが立っていることもできなくなり、ぐしゃりと崩れ落ちる。

<まさか…>

<これが氣の刃?>

<威力上がってるのかは判断できんけど…牛鬼まとめて一撃で掃除するのは流石にえぐいて…>


さらに音を聞きつけてやってきたリザードマンに対して氣の刃を放つ。


…音を聞きつけてやってきすぎやしませんかね?



シミターで氣の刃を防ごうとしたようだが…シミターごとリザードマンを切り裂いた。


その瞬間、運悪く通信障害が発生したのかしばらくコメントが止まってしまった。



「あれ?通信障害発生しました?」

<まじかよ…>

<さっきシミターで弾かれたはず>

<マジで威力上がってんのか!?>

<いやいや…コメント見て数分で改善って…ヤバすぎww>

<どうすればここまで技の威力が上がるんだよ!?>


「威力の上げ方は…想像力ですね!今まではただ相手を切り裂く刃をイメージしてましたが…。大雑把なイメージ過ぎて威力を乗せきれてなかったんですよね。今回はアダマンタイトを軽々切る瑠璃刀るりとうをイメージして、それにさらに氣を纏わせて威力を上げてみました」

<なるほど…とはならねーよ!?>

<それは流石に無理があるww>

<かずやん嘘はいかんよ?>

<アダマンタイトを切るイメージってのがまずできんわ!?>

<【50,000円】「姫っちゃん」具体的なイメージですか!?師匠…勉強になります!>

<姫っちゃんキタ――(゚∀゚)――!!>

<姫降臨!>

<姫っちゃんキタ――(゚∀゚)――!!>

<【10,000円】やめて姫っちゃん!?人の領域を超えてしまうよ!?>

<下層もフロアボスまで行ってたよね!?>

<火炎を身にまとえば熱くないという謎理論で火山フロアを暴走配信…火炎をまとえば氷山フロアも寒くないで突撃しちゃったりで…人外への一歩踏み出してるよね!?>

<ソロでフロアボスに挑んでんだもんな…もう単独でSランク見えて来てるんじゃないか?>

<弟子は弟子で成長速度が異常すぎるwww>

<【666円】「絶許」絶許!絶許!絶許!>

<その成長速度が欲しい!先を行くのは許さない!とのこと>

<もう、意味がわからないよ!?>

<なんでわかるんだよ…>

<流石、絶許氏の噛みつき具合w>

<絶許氏も切り抜きチャンネルで登録者数50万人越えは十分異常だと思うけどな…>

50万突破…だと?

ちなみに絶許氏のチャンネルは…教祖と信者の関係といっていいのだろうか?

コメント欄が頭のおかしいやつらで溢れかえっていたので…何も見なかったことにしてそっと閉じた。


コメント欄の活発具合を見て良しとしながら、先に進むと上に続く階段が現れた。


うーん…、このフロアモンスターの数は多かったが似たようなモンスターばかりで肩透かしを食らってしまったな。


残り1層…次は変わり種のフロアか?それとも待ち受けるのはボスか?


―――――――――――

更新が遅くなってすみません…

かずやんの成長速度に筆の速度が追いつかないです!?


「★★★」「ブクマ」「コメント」いつもありがとうございます!

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