第133話 かずやんの春休み(3)妖怪

深層も…変わらず温泉ダンジョンだったが、モンスターは急にいつもの深層の顔ぶれだ。


下層のゆるーい攻略で気が緩んだところにマッハラビットが飛んで来たら初見殺しになりかねないだろうな…。

しかも温泉の蒸気で視界を遮られた上に、高速の角が四方八方飛んでくるからタチが悪い。

<なんであんなに緩んだあと、マッハラビットを軽々あしらえるんだろう…>

<初見殺しだろ…>

<甘々の下層超えて、深層の初撃がこれとか鬼畜だろ>

<そういいながらもかずやんは対処していくんだよねー>


「いやー…このフロアとマッハラビットって相性が悪いですねー視界を削られるとこうもやりにくいんですね!」

<そういいながら、余裕であしらうんだよなー…>

<緊張感カモーン!!>


深層のモンスターを狩りながら、足を止めることなく深層を踏破していく。

下層の場合はモンスターも弱くなっているのでバランスが取れていたが、深層いつもの顔ぶれのモンスターも蒸気で視界が遮られるだけでかなり戦いにくい。

しかも層を進むにつれて、蒸気がひどくなっているようにさえ感じるな。


ぐもぉおおおおおーーーー!


ここは…フロアボスのいるフロアなのだろうか?

足を踏み入れた瞬間、牛が鳴くような鳴き声が響いている。


蒸気で視界がぼやけるので、氣の刃で蒸気を吹き飛ばした。



ギィン!


何かにぶつかる音がフロア中に響く。


蒸気が晴れる。


そして姿を現したのは…顔は牛、身体は…丸々太った蜘蛛?

俺より三倍ほど大きい存在がそこにいた。



<牛鬼じゃん!?>

<妖怪キタ――(゚∀゚)――!!>


「こ…これは…食べられるんですかね?」

<気にするところそこかよww>

<蜘蛛っぽい見た目だけど、鬼っていうぐらいだしあの太った部分、実は食べられるんじゃないかな?>


六本足の一本を振り下ろしてくる。

短刀でいなしつつ、距離を詰めてきたので蹴りを入れようとするが、スレスレの部分で器用に避けられた。


<見た目のわりに素早いなww>

牛鬼の腕が地面に突き刺さるとジュッと音を立てて地面が溶ける。


「…うーん。牛鬼の腕…素手で受けてたらヤバかったかもしれないですね」

<冷静ww>

<なんでそんなに落ち着いてられるんだよ>


まあ…普通に歩く分には地面は溶けていないから攻撃の時だけ何かを腕に纏っているのだろう。


グォオーーー!


左右の腕が振りかざされ、避けたところに、さらに左右の腕が襲い掛かってくる。


片方の腕は短刀で受け止め、もう片方を氣の盾で弾こうとしたが…。

バリンッ!!


「なっ!?」

ガラスが割れるようにいともたやすく氣の盾が霧散し、勢いも殺しきれず先端が鋭利になっている牛鬼の腕が俺の腕を掠めて血しぶきがまった。


「いってぇええー!!!」

かすったところが青紫に変色している。

傷口が熱くジクジク痛む。

そして急に視界がブレ立っていられず膝をついた。


あの腕毒でも纏っているのか?


湧き水を取り出しグイっと飲みつつ、腕にも振りかける。

牛鬼と距離をとり、息を整える。


「いやー…あの腕というか足というか…毒ですね…。しかも氣を中和するようです」

<マジかよ…氣万能説と思ってたのに…>

<氣の盾が一瞬で破られてたな…>


「んー…やっぱり狂暴化バーサークを使わないと、フロアボスはまだ相手できないですね…」

<今更だが…バーサークなしで倒せるようになったフェンリルよりも牛鬼って強いのか…>

<パワーバランス…マジわからんねー…>


「さて…やりますか…狂暴化バーサークLv1」

<そこでLv2を選ばないのがかずやんだよなー>

<まだ牛鬼を食材としてみてるってことか…>

<食欲が異常すぎるww>

<まーかずやんだしねw>


俺の変化を感じ取ったのか、牛鬼がジリッと一歩下がる。


ドンッっと地面を蹴って一気に距離を詰め蹴りを放った。


さっきは器用に避けられたが…腕でガードが間に合わなかった牛鬼のぷっくり太った腹をサッカーボールのように蹴りつけた。


グォオオオーーー!!!


フロアに悲痛な悲鳴が響き渡り、その後ドゴンッっと壁に巨体が叩きつけられた音が響き渡る。


ガクガク震える足で何とか立ち上がる牛鬼、こちらの変わりように驚きを隠せないようだ。


「本当は狂暴化バーサーク無しで倒したかったが…今の俺だと実力不足のようだ。牛鬼お前を食べて俺は強くなる!」

<めっちゃ主人公っぽいこと言ってるようで…ただ食べるって宣言しかしてないな>

<食べて強くなれるのが探索者>

<※ただし一部の探索者に限る>

<※かずやんは特殊な訓練を積んでいます>


最後の力を振り絞ったか、角をこちらに向け猪突猛進してくる牛鬼。

体格もあるので、ダンプカーが突っ込んでくるような圧迫感だ。


この一撃は避けても良かった。

だが牛鬼との闘いでは、ここまでのいいようにやられて、湧き水で治して、そして蹴っただけだ。

それに…情けない姿のままで終わらせたくはない。


さっきの蹴りで相手の力量はわかったつもりだ。


牛の顔を見ると、目を血走らせ涎をまき散らし死力を振り絞る必死の形相。

ならば…その思いにも応えるべきだろう。



拳に纏わせた氣を凝縮させ、一点に集約させたあと一気に解き放つ。


突進がピタッと止まる。


拳と牛鬼がぶつかりあって空気が爆ぜる。


衝撃で牛気の巨体の足が地面から離れ…拳を振り抜き、巨体を力任せに壁に叩きつけた。



防御もできず、壁に叩きつけられた牛鬼の目がぐるんっと白目をむいて口から涎と泡を吹き出だし…

六本の腕がだらりと垂れて、ピクリとも動かなくなった。


―――――――――――

かずやんの他の技を使うタイミングが中々難しいですねー…


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