第132話 かずやんの春休み(2)蒸し風呂

「えーっと、本当は中層のフロアボスの温泉モンキーと戦ってみたかったんですけど…草津ダンジョン人気すぎて討伐された後だったんですよねー」

そう言いながら、小腹が減ってきたので追加で買ってしまった焼きまんじゅうを食べる。


<焼きまんじゅうを食べるなww>

<戦うまでもなくかずやんの圧勝でしょw>

<中層でかずやんを足止めできるモンスターはいないww>


視聴者のコメントを眺めつつ、獣のような形をした蒸気がこちらに向かって飛んでくるのを手で払うと霧散する。

霧散する過程で、ほど良く温かい蒸し風呂の気分を味わうことができた。


蒸気を自身の姿に見立てて攻撃してくるモンスター温泉ウルフの攻撃のようだ。


蒸気は本体の劣化版だし、そもそも蒸気の塊だから殺傷力が全く感じられない。

影を扱ったり影に潜って攻撃を仕掛けてくるシャドーウルフと比べても見劣りするな…。


次から次へと出てくる分身体の蒸気を手で払って蒸し風呂気分を堪能…倒せば倒すほどほんのり蒸気でリラックスしていく。

10匹ぐらい倒したところで…蒸気の塊が出てこなくなった。

どうやら一度に出せる蒸気の数には限界があるようだ。


過去に相手したキングオークと子分たちと比べても圧倒的に強さが見劣りしてしまう。

これが草津の観光ダンジョン…期待を裏切らないなー!


と思っていたら、唸るウルフが現れた。


「これ…本体っぽいですね?」

<なんだろう下層のフロアボス…なんだよね>

<なんか…かずやんを見る目が怯えてないか?>

<身包みはがされた温泉ウルフカワイソス>


「リラックスしたら…お腹が空いてきたので…食料を…」

<焼きまんじゅう食べたばかりだろww>

<現地調達ww>

<鬼畜の所業ww>

<ああ…もう敵として見てないw>

<それは元からだwww>


唸りながら襲い掛かってくる温泉ウルフに食べ終わった焼きまんじゅうの串に氣を纏わせ眉間に一突き。

甲高い声を上げて倒れ込む温泉ウルフ、勝負は一瞬だったなー。


「さて!サクッと温泉ウルフを使ったお昼にしましょうか!」

<切り替えの早さよww>

<まんじゅう串は武器になるのかw>

<なんかデジャブww>

<配信はじめて即料理かww>

<まあかずやんは上層から下層まで来てるわけだしねw>

<くーっ…開幕早々飯テロか>

<【666円】「絶許」絶許!絶許!絶許!>

<まだご飯食べてないのに飯テロは許さない!と言っているようだ>

<絶許氏もゲリラ配信みてるのかwww>

<ゲリラ配信なのに絶許氏の解説もいるのかよw>


…開始早々飯スタートになったのは正直すまんって。


言い忘れていたが、この下層フロアは温泉が湧いている。

湧いていると言っても所々に穴が開いていて高温の蒸気が噴き出しているだけだから、人がゆったり入れる温泉とは程遠い。


ただ今回はこれを使いたいと思ってたんだよねー。


とりあえずグロフィルターを有効にして温泉ウルフを解体していく。

解体した肉は気持ち薄めにスライスしておこう。


後はエメラルドキャベツ、ルビーキャロット、カラフルパプリカン、ハロウィンカボッチャを適当なサイズにカットして、もやしを敷き詰めたざるの上に乗せていく。

最後に手で裂いたしめじと、その上に野菜を蓋するように薄くスライスしたウルフ肉を乗せて、脇に卵を乗せたら…蒸気が噴き出る穴にざるをつるして、蓋をしてしばらく待つ。


「いやー…温泉に来たら一度はやってみたかったんですよねー」

まさか草津の温泉でできるとは思っていなかった。

高温の蒸気が噴き出る場所があるのも、ダンジョンならではということかもしれない。



しばらく雑談をしながら時間を潰し、良いころ合いかと蓋を開けるとブワッと蒸気が噴き出る。

さっきの温泉ウルフの蒸気より絶対熱い。普通に触ったら火傷する温度だろう。

「よーし…いい感じですねー!地獄蒸しの完成です!」


<蒸し野菜…>

<温泉の蒸気で料理ってできるの?>

<大分県の地獄蒸しを知らないのか?>

<流石にしらんわw>

<箱根でも黒たまごとかあるだろw>

<あれは地熱とか火山ガスじゃなかったっけ?>

<知ったか乙ww>

<でもあれは温泉の湧出量日本一を誇る大分県だからできる芸当だろ>

<いやいや、草津は東で一番なんだぞ?>

<でも…ダンジョンの中だったら群馬県でもできるんだな…>

<観光ダンジョンだし…下層の浅いところだったら中層ミノタに手こずる俺でもいけるか?>

<観光ダンジョン甘く見すぎ!まあ…下層に行くだけだったら温泉モンキーは大体討伐されてるから余裕だろうな?まあいたとしても…通常ダンジョンで中層フロアボスまで行けたら十分戦えると思うけど>

<そんなに難易度に差があるのかよ…>


「さて…ではいただいていきましょう!この後深層の探索もあるのでノンアルコールの金色のヤツを用意して…いただきます!」

お次に肉で野菜を包んでまずは何もつけずにパクリと一口。


うーん…ほど良い塩味とスモーキーな香り。

ちょっと物足りなく感じたらノンアルビールでグイっと流し込む。

「まあ…これはこれで美味しいんですが、優しすぎるので…じゃん!柚子皮入りのポン酢を付けて食べていこうと思います。このポン酢生の柚子皮が入っていてめちゃくちゃ風味がいいんですよ」

ちょんちょんとポン酢に付けて蒸し野菜を食べると…これはうまい!

蒸した野菜とポン酢もしっかり合うけれど、温泉で蒸したことで塩味もあって普通の蒸し野菜より旨い。

この温泉で蒸すことで得られる味は家じゃ絶対作れないな。

ポン酢がさっぱりしていて、次から次へを口に運びたくなる。


半分ぐらい食べたところで、味変に胡麻ドレッシングを取り出し蒸し野菜に付けて食べる。

これがまたウマイのよ。

胡麻の甘みと濃厚さ、温泉の塩味とスモーキーな後味がいい感じにマッチしている。


肉、野菜、肉、野菜を食べて…最後に温泉臭のする卵の殻を割る。

おでんのパッサパサの黄身とは違い、しっとりとした卵の黄身。

半熟のトロリとしたのも好きだが、いい塩梅のしっとり具合が一番好きかもしれない。例えるならコンビニで売ってるゆで卵ぐらいかな?


温泉の塩味もあって何もつけなくても旨い。


しっかりと腹を満たした俺は、コーヒーで一息ついて…深層へ向かうことにした。


<蒸し野菜って旨いよなー…>

<かずやんが使ってたポン酢俺も使ってるけどマジ風味が段違いで旨い>

<ただの蒸し野菜と違うのがポイントだよなー…>

<大分出張あるから地獄蒸し食ってくるわ!>

<俺も今から草津ダンジョン行こうかな…>


―――――――――――

蒸し野菜を作ると、柚子ポン酢か、胡麻ドレッシングで食べることが多い作者です。

あれ?串ってやっぱり…武器?


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