第130話 春休み

強制ミッションが終わってから数日、溜まっていた仕事を消化する日々が続いたが…

季節は3月、ついに決算期がやってきた。


五大ダンジョンの深層踏破と無名の探索者が異例の世界ランキング4位に飛び級したというニュースが世界中で流れ、メインチャンネルの登録者数はあれよあれよと4000万人を突破していた。

サブチャンネルの料理チャンネルも1000万人突破と順調に増えて行っている。


はじめの動画編集もかなり評判が良いらしくショート動画からメイン動画に遷移して、そのままチャンネル登録してくれる視聴者も一定の割合がいるようだ。


亮が会社の収支を計算してくれるようになったのだが、登録者数も増えて収入が増えているのに、ほとんど支出が変わらない状況が続いているので、経費を計上して節税しないと後々が大変だな言われてしまっていた。


苦肉の策というわけではないが、期末賞与と、ベースアップを実施する旨を社員に通達すると…。

「パイセン…給料出しすぎっすけど会社傾かないっすか?」

「うーん…前の会社の○○倍の年収…10万越えのふるさと納税する必要があるのは人生初めてです…」

「おいおい…アドバイザーの俺の給料もベースアップするのか…大盤振る舞いじゃないか?」

亮に関しては、関連会社兼アドバイザーとしてうちの会社にも席を置いてもらっている。

まあ…これからも仕事で返してもらうから先行投資だ。


「まあ…むしろどんどん使わないと翌年以降会社運営に支障が出てくる可能性があるから安心して受け取って欲しい」

俺自身、課税所得の掛からないドロップ品の買取だけで本業以上の収入が入るので、配信をせずに探索者として生きていくこともできなくはないのだが…。

探索中の会話ってかなり重要だと感じるようになっていた。

パーティーで探索していたら別なのかもしれないが、無言で一人モンスターを淡々と倒し続けるとか精神が崩壊してしまうかもしれない。

そういう意味だとMTuberっていうのは必要な職業なのかもしれないな。


色々理由を付けることはできるが、一番は探索中して深く潜れば潜るほど旨い食材に出会い、深淵層という新たな存在を知ってしまった今、まだ出会っていない数々の食材に胸が踊る自分がいる。

危険と言われても、死と隣り合わせだとしても、もう…やめることができない。


「群馬県…か」

「グンマーがどうしたっすか?」

「ああ…すまない。急だがわが社に春休みの制度を導入しようと思う」

「春休み…ですか?」

「1週間、いや2週間…ちょっと気になるダンジョンに探索をしてきたいと思っているんだ。

それもあって、ほかの仕事がきても対応できないし、長期間配信し続けることにはなるから編集業務はできなくはないが…」

「まあ…見せ場とかを考えると、配信が終わらないと編集は厳しいっすね」

「そうだろ?だから一先ず特別休暇で2週間の春休みを設定したいと思っているんだが…どうだろう?亮の会社は俺の担当以外の業務もあるだろうからそこの判断は亮に任せるよ」

「おう、流石にこっちは書入れ時にそんなに休みを取ったら仕事がなくなるからな。通常営業予定だ。まあ和也の会社が特殊なのは重々承知しているつもりだ。俺のことは気にしないでくれ」

「ああ、すまんな。助かるよ」


「給料アップに、休みもアップ…もう意味が…わからないよ…」

国立さんの魂が抜けている。


「まあ…いいんっすけど…五大ダンジョンの一つを数日で踏破したパイセンが、1週間、2週間探索っていう部分が気になってるんっすが…ここら辺深堀して聞いていいんっすか?」

ジト目でこちらを見てくるはじめ…まあ疑問に思うよな?


「ああ…その話をする前に、俺はまだ首里城ダンジョンを踏破していない。

深層のその先…深淵層が存在しているのは確認済みだ。

かといって今の実力で五大ダンジョンのその先に挑むのは自殺行為。

そこで、四ツ谷さんから群馬県に深淵に続くダンジョンの存在を聞いた。

俺は…自分の成長のためそのダンジョンに挑みたいと思っている」

「…」

「…」

「で?建前はわかったっすけど、本音はなんっすか?」

うん、それっぽい理由はダメかー…。


「いやー…深淵の食材食べてみたいなーって!」

「ゴタゴタ言わずに最初からそう言うっすよ…。まあ行ってよしっす!」

「これが正妻…」

「なんか言ったっすか!?」

「いえいえ…うっ!私のお赤飯レーダーが…」

「意味わからないっすよ!!そのアホ毛引っこ抜いてやるっす!!」

俺の話を置いて、追いかけっこが始まった。

うん、めちゃくちゃ仲いいねー…




「ぜぇ…ぜぇ…ゴキブリ並みの回避力っす…」

肩で息をして額に汗を浮かべるはじめと…

「はぁはぁ…」

頬を蒸気させてうっとりした表情を浮かべる国立さん。


「えー…っと」

「深淵層の話っすよね!?死ななければ別に何してもいいっすよ!パイセンどいてっす!そこのアホ毛捕まえれないっす!」

えっ?っと思った瞬間、俺の背後に先ほど目の前にいたはずの…国立さんが…いる…だと?


「ぐふ…ぐふふふふ…」

背筋がゾッとする。モンスターと異なる圧を感じ、とっさに回避行動を…。

「だめですよー…グヘヘ…夫婦漫才は夫婦が一緒にいて成り立つんですよー」

予想してなかった膝カックン、体勢が崩れたところで背中をトンッと押されて、そのままはじめを巻き込んで倒れ込む。


「んー…マーベラス!!!!」

鼻血を吹き出し昇天する国立さん。


「おいおい…ここは…会社…なんだよな?」

頬を引きつらせる亮。


俺とはじめがどうなっていたかは…想像に任せることにしよう。


―――――――――――


くにやん…変態するとヤバい…?

少しクッションを置いて…

次回以降からは…深淵層編


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