第126話 落雷のその先に

深層を進んでいくこと…気が付けば30層に到達していた。

それまでの過程は出てきたモンスターをちぎっては投げを繰り返していたが…。


この層に到達してからは、空気が変わったような気がした。


そして探索を進めていく上で、一つ目サイクロプスの上位種と言われるアルゲスと相対した。


緑のサイクロプスと、紫のアルゲス。

ただの怪力のサイクロプスと異なるのは、ゼウスの雷を鍛えたと言われる三匹のうちの一匹という点だ。

これはもしかしなくてもフロアボスか?


その手に持つのは棍棒ではなく変な形の剣で黒い雲がまとわりついていた。

モンスターが剣を使うというのも不自然さがある…。


空気が震え嫌な気がして距離を取ると――

俺が元いた場所に雷が落ちた。


古典ギリシア語で落雷を意味する。

どういう原理化はわからないがダンジョンで落雷…これはモンスターの攻撃か?

ダメもとで氣の刃を飛ばすが、アルゲスに届く前に霧散する。


うーん…どうやらあの剣をまとっている雲があやしい気がする。

フェンリルと同等かそれ以上の雷使い。


距離を詰めて短刀を振るうが触れる前に、バチっと腕が跳ね上げられた。

「ギヒヒ…」

いやらしい笑みを浮かべるアルゲス。


――そして剣を振り下ろしてきた。


弾かれた逆の腕で、とっさに氣の盾を出し剣を防ぐも…。


バチンッ!!


視界が弾ける。

氣の盾を吹き飛ばし雷が俺を貫いていた。


「ガッッ!?」

肌が焼けて、痛みが全身を駆け巡る。

フェンリルの雷と比べても威力が雲泥の差だ。


「…狂暴化バーサークLv1!」

痛みを感じにくくさせるドーピング、苦痛を感じるよりも全身を熱くさせて気を紛らわせる。

痺れて動きが鈍くなっていた身体が軽くなり、アルビスの振り下ろしてきた剣を、短剣に氣を纏わせることで剣に直接振れずに弾き飛ばし、応戦するように氣を纏った拳を放った。


ヤツもこの一撃に何かを感じ取ったのか受けるよりも避ける行動を優先し…避けた先で体勢を崩す。


俺の氣を込めた一振りは、避けた奴の鼻先をかすったようだった。


地面に縫い付けられたように動けなくなったアルゲスに、氣を纏わせた力任せの一撃をブチかました。


ドゴンッ!!!


空間が揺れる。


そして…バリバリッと俺の拳がしびれて黒く焦げていた。


俺の一撃を防ぐために剣を盾にしたアルビス。

そのアルビスを殴りつけた瞬間に、落雷が落ちてきて避ける間もなく拳を焼かれてしまった。


ただ焼かれただけでは済まさず、剣を勢いのままに粉砕し、その勢いのままヤツをダンジョンの壁に叩きつけた。


衝撃で白目をむくアルビス、どうやら…ダメージが入ったようだった。


動かなくなったのを見届けて、深層の湧き水を拳に振り掛ける。

焼けるような痛みに頬が引きつるも…よしっ、拳が開く。

狂暴化バーサーク中じゃなかったら…痛みだけで気絶してそうだな…。


<いやいや…荒療治すぎw>

<剣は拳で砕けるのか…>

<剣より硬い拳>

<怒涛の展開に文字打ち込めなかった…>

<グロ拳も水かけてりゃ治るって…>

<深層の湧き水…ヤバすぎだろ>

狂暴化バーサーク使わないと戦いにならんのか…流石深層…ってかこれフロアボス?>


「さて…相手の剣も折ったので…ここからは攻めていきますよ!」

<ああ…勝ち確だろうな…>

<いっけーかずやん!>

<これフラグってやつでは…?>



意識を取り戻したのか、雲が霧散し折れた剣を頭上に放り投げたアルゲス。

「ギギギ…グァアアアアーー」

折れた剣が空間に溶け込み…落雷がアルゲスに落ちた。


砂煙が舞い、視界を奪われる。

えっ?自滅?なにやってんの?


そして…砂煙が晴れたとき…

髪の毛が金色になって逆立ったアルゲスがそこに立っていた。


<おいおい…スーパーサ〇ヤ人かよ…>

<いやいや…なんで相手の方が主人公っぽいんや>


「いやー…ホントデスヨネー」

アルゲスが…その場から消えた。

「…ん?」


そして横からの衝撃が走り…蹴られたことに気が付いた。

「ぐぁ…!」

ダンジョンの壁に叩きつけられ、防御も間に合わず衝撃で肺から息が吐き出される。


<まじでスーパーサイ〇人やんか…>

<あかんやろ…あれは…>

<色々問題になる前に倒さないと配信消されるぞ!?>

<心配するところはそこじゃないだろ!>

<【6,666円】「絶許」z絶許!絶許!絶許!>

<マジでヤバいって!>

<【10,000円】ヤバいって!逃げろーかずやん!>


壁に叩きつけられたダメージよりも呼吸困難な方が辛い、必死に息を吸い込みながら…


ヤツを見ると――

雷を纏ったアルゲスの足は黒く焦げ、肉が削げ落ちかなりグロい。


どうやらあの雷のバフは自分の肉体以上の力を引き出す代わりに…身を滅ぼしていくようだ。

さっきの一撃もあと1発放ったら足が無くなっても不思議ではない。


こちらもダメージというより衝撃はあったが…これだとヤツのほうがダメージを受けていそうだな。


<足…にグロフィルターってことはスーパー〇イヤ人にも限界があるってことか>

<かずやんが反応出来ない速度で蹴りを放つって…>

<流石深層モンスター…なのか?>


「スピードには驚かされましたが…このままだと自滅しそうですね」


<壁に叩きつけられたはずなのになんでぴんぴんしてるんですか!?>

<かずやんですし…>

<緊張かーん!!>


「とはいえですね…長引かせると…見た目的にキツいので…これで終わらせます」

そう言ったときに、アルゲスの姿が消える。


雷のバフで限界を超える力を出すつもりなのだろう…

氣の検知よりも早く動くが…


この勝負の敗因を俺なりに一言で表すとするならば…肉の焼ける匂いは消すことができない。


焼けた肉の匂いに向かって短剣を振り下ろす。


手に残る何かを切った感覚。

そしてアルゲスは糸が切れたように倒れ…そしてダンジョンに吸い込まれるように消えていった。


流石にサイクロプスを食べたいとは思わなかったが…

肉の焦げた匂いが食欲を刺激してしまっている。


そうなると…すぐに消えてしまうというのもちょっと悲しいと思ってしまっていた。


アルゲスのいたところには、青紫に光る石が転がっていたのでとりあえずそれをマジックバックに詰めたところで…


氣が人を検知した。


―――――――――――

「★★★」や「ブクマ」いつもありがとうございます!


サイクロプスは弱かったのに…アルゲスは深層フロアボスに昇格…

飯ネタにならないキャラをフロアボスに使ってしまうとは…不覚なりー

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