第111話 漁師かずやん

すっ飛ばすが…大間に到着した俺と武蔵境さんは、漁業協同組合の面々に囲まれたていた。


「君らSSSランクだ?そっちのイカツイのはまあ…大丈夫そうだ?こっちのあんちゃん大丈夫だ?」

肩をバシバシと叩いてくるガタイのいいおっちゃん。

地味に痛い。

「ははは…まあ大丈夫だとおもいますよ?」

「やーいやぁ…頼むよ?まぐろもどきに迷惑しとるだ」

頭をガシガシかきながら、船に乗るよう促され…そしてやいややいやで出向することになった。


どうやらもうクレイジーマグロは出現してしまっているようで、漁は完全休業状態になってしまっているとのことだ。


船が港を出航して30分ほど経過したぐらい、大間の海はかなり荒く揺れていた。

記録兼、報告用に配信を開始する。

こんな海上でも配信ができるのは技術の進歩を感じるなー。


「皆さん、こんにちはー!こちらは大間の海上から配信しています!」

<こんちゃー!>

<こんー!>

<マジで海じゃんw>

<【8,989円】…今日の配信なにー?>

「今日は大間の海でクレイジーマグロのイレギュラー狩りを行っていこうと思います!今回はかずやんこと私と…SSSランクの武蔵境さんとコラボさせていただくことになりました!」

「……」

「武蔵境さん?」

「……」

はて?武蔵境さんの顔色が悪いような…。

「うっぷ…」

「ちょっ!!」

急いで配信中の画面を切り替える。

オロオロと魚の餌を海に放出する武蔵境さん。

「だ、大丈夫ですか?」

「あ…ああ…海上というのはこうもダメージがあるものなんだな…」

ぜぇぜぇと肩で息をする武蔵境さん。

この光景を誰が想像しただろうか…。

弱点のなさそうな武蔵境さんの弱点は船酔いだったなんて週刊誌に取り上げられそうだ。

(予想通り後日、週刊誌で取り上げられていた)


「とりあえず、あそこで寝転んでいてください」

「ああ…すまない」

のろのろとした足取りで段ボールが敷かれているところまで歩くと倒れこんだ。

これは…もう武蔵境のサポートは期待できないだろう。


「じゃいーし!大丈夫だ?まぐろもどきの討伐は?」

心配そうな顔した船長がこちらを見ている。

期待しているほうが先に倒れてしまったらその反応になるのも無理はない。

<まさかの開幕早々武蔵境さんダウンwww>

<【666円】「絶許」…絶許!絶許!絶許!>

<絶許氏、武蔵境氏にも手厳しい!>

<想定外のハプニングwww>

<人類最強と思われたが、海に弱かった>

<武蔵境さんは悪〇の実を食べてたのか…>

<かずやんは食わずしてこの強さ…>

<※かずやんは人ではない>

<武蔵境さんも人…か?>

<船長がメッチャ不安そうにしてる…>

<船走らせたらSSSランク探索者が即ダウンは流石に不安になるだろ…>

<まあ…かずやんが機能してるなら余裕だろ>



「えーっと、少々アクシデントがありましたが、これからクレイジーマグロを探しに行こうと思います。といっても、漁に出ると向こうから襲ってくるそうで…探さなくてもしばらくすると獲物が向こうからやってくるらしいです」

大荒れの海で揺れる船上ではあるが、少しずつ波が荒くなってきているように思う。


……


ザパァアアアアーン!

遠目に黒い何かが


「きただ!まぐろもどきだ!準備してなー!」

どうやら…相手がおいでなすったーようだ。

ちなみに武蔵境さんは…ダウン中だ。

段ボールの上で悶えていた。


「失敗できないので…初手から本気を出します。狂暴化バーサークLv1!」

大間の海は寒いが、全身に血が巡り熱くアツク鼓動を打つ。

自身の熱に堪え切れず上着を脱ぎ棄てると、身体の熱と気温差に湯気がたった。

「じゃじゃじゃいーし!あんちゃん。なんかすごそうだー!」


そう言っている間にも…黒い物体は弾丸のようにこちら目掛けて迫ってくる。


<【1,000円】いっけー!かずやん!一撃で沈めろ!>

<沈めたらダメだろw>

<生け捕りして料理だなw>

<【50,000円】「赤羽トランジスタ」この度はご迷惑をお掛けして申し訳ございません。尻ぬぐいたのむぜー!>

<赤羽ww反省してんのかよ!>

<「ロース」すみません、トイレからコメントしてます…反省してます>

<「赤羽トランジスタ」いうなよ!?>

「ははは…まあどうにかしますよ」


黒光りした砲弾と表現できる勢いのクレイジーマグロが船に向かって突進してくる。

船長は恐怖で操縦室に引きこもり祈りを初めてしまった。


不安にさせて申し訳ないと思いながらも…。

ただここで殴り倒してしまうと獲物が海に消えてしまうので、ロープの先に槍を取り付けた捕獲道具に氣を流し補強し、俺の間合いに入ったのを確認し脳天目掛けて必殺の一撃を放つ。


ドスンッ!


クレイジーマグロの額に槍が突き刺さり突進が止まる。

風が吹き抜け揺れる船に…武蔵境さんはオロオロと海に餌を与えていた。


突き刺さったマグロがビクンッと震えるも、槍の一撃では仕留められなかったようだ。

<でけぇ!!!>

<サイズおかしいだろ…>

<かずやんが乗ってる船より大きくなかったか?>


槍の一撃を受けたマグロは、自分自身に何が起きたか理解したようで逃げ出そうとする。

足場は不安定な船上、逃げるマグロの引きで大きく揺れる。


「逃がすか…よ!!!」

伸びるロープに氣を込め、力任せにロープを持った腕を振り上げた。

巨体が宙を浮き…そして勢いよく落ちてきた。


<いやいや…このサイズのマグロって宙を浮くのか…>

<神経締めと早めに血抜きしないとすぐに身が焼けそうだな…>


「そうなんです。自分自身で身を焼いちゃって刺身で食べれなくなるので、一撃で神経締めしましょう」

空を舞ったマグロは…重力任せにそのまま落ちてくる。

槍が刺さった額に向かって、氣を込めた一撃を解き放つ。

ビクンッとのけぞったマグロは大きいしぶきを上げ海に落ちた。


<神経締めというより、神経破壊してるだろwww>

<イレギュラーのマグロなんだよね?>

<一撃ってwww>

<尻尾の部分、今切った?>

<まさかの海で血抜きする気かw>

そう、このサイズのマグロは船に乗せられないので、海に落ちるタイミングに合わせて、尻尾の少し上のところに切り込みを入れておいた。


海に落ちたマグロの反動で、船が大きく揺れる。

「うぉ…」

武蔵境がビクビクッと悶えているが、それどころではない。


槍が刺さったロープを引いてクレイジーマグロを船に寄せる。

マグロは自分の体温で身焼けを起こしてしまう手早い処理が必要だ。

ただ、このサイズのマグロを完全に血抜きするのは流石に…ムリだ。

エラの奥に切り込みを入れて、口にホースを差し込み海水を流し込む。

あとは槍が抜けないように両方のエラをロープで固定して海に返した。

これで多少は血が抜けるだろう。

「あんちゃん…イカツイのより漁師のセンスあんだ。血抜きも手際いい、よかったら漁師にならんだ?」

「いやー…自分は探索者なんで…」

「残念だ。探索者辞めたら、うちに来な」

<まさかの漁師かずやんが爆誕するのかw>

<【10,000円】かずやん最強!かずやん最強!かずやん最強!>

<【10,000円】かずやん最強!かずやん最強!かずやん最強!>

<【30,000円】クレイジーマグロのイレギュラーを一撃ってwww>

<【50,000円】「姫っちゃん」まぐろ祭り期待してます!かずやん最強!かずやん最強!>

<姫っちゃんだ!>

<【1,000円】姫降臨!>

<姫降臨!>

<姫っちゃんキタ――(゚∀゚)――!!>

<姫っちゃんキタ――(゚∀゚)――!!>

「姫っちゃんこんにちはー!まぐろ祭り…いいかもしれませんね。」

流石に食べ切れる量じゃないし、視聴者イベントをしてもいいかもしれない。

<【666円】「絶許」絶許!絶許!絶許!>

なんでだよ!?

<くーそこで食いつくか…絶許氏>

<パネェwwしびれるわー>


この後、陸まで戻り釣り上げたクレイジーマグロの重量は…まさかの1t越え。

過去の記録をダブルスコアで更新したのだった。


―――――――――――

「★★★」や「ブクマ」いつもありがとうございます!


クルーザーで酒を飲んでも、漁船で酒飲みながら魚釣りしても船酔いにはならないんですが、海が荒いと船酔いになりますね…

船に乗る機会は少ないですが、過去一度だけ船酔いになりました(苦笑


武蔵境さんの存在感…

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