第110話 納会(5)

〆と言っても最初に作っていたビーフシチューに火を入れるだけだ。

フランスパンを薄切りに切ってオリーブオイルとすりおろしたニンニクを混ぜたものを塗って焼く。

ビーフシチューに付けて食べるのもいい感じだが…。

トマトを取り出し適当なサイズにカットしボールに入れる、オリーブオイルと塩と胡椒、バジルを入れて味をなじませたら氷の張った水にボールを入れて冷やしておく。

アボカドを入れてもいいが、ビーフシチューがあるのでサッパリ目の副菜を準備した。

<手際よすぎだろw>

<次の料理はビーフシチュー…調理工程は省略w>

<ブルスケッタは片手間で作るのか…>

<ビーフシチューとブルスケッタ…ワインも食べる手も止まらなそうだな>

<【5,000円】どこに行けば食べられますか?>

「あっ、すみません。ビーフシチューは別の日の動画でアップするのでお楽しみに!あとブルスケッタ用の具材は…思い付きだったので手が勝手に動いちゃいました」

<料理慣れしすぎww>

<バランスよさそう>


「さて…最後の料理の準備ができたんで、はじめ、くにやん皆に配るの手伝ってくれるか?」

「「はーい(っす)」」

皆の分を皿によそって、皆に渡していく。

薄切りにして焼いたフランスパンは大皿に乗せて机の中央に置いた。

あとはブルスケッタにして食べるように軽く調理したトマトは深皿に入れてスプーンを入れて置いておく。

箸休めが欲しかったら各自ブルスケッタにしてもらうスタイルだ。


「では、皆さん遠いところお集まりいただきありがとうございます。今日の最後の料理はビーフシチューと箸休めのブルスケッタになります。最後まで飲んで食べて楽しみましょう!」

赤ワインをグラスに注いで最後の乾杯。


「すまない、少し席を外す」

最後まで楽しんでいたところで、四ツ谷さんのスマホに着信が入り、すまないと手で合図して四ツ谷さんが席を外す。





「はぁっ!?」

部屋を出て電話に出たであろう四ツ谷さんの声が響く、築年数がそこそこ経っている家だからこそ大きい声は響く響く。

そして扉が開かれた。


「かずやん…これからマグロ釣りに行ってはくれないか?」

酒の酔いが一気に醒めた四ツ谷さんの一声は…なんというか。

反応に困るものだった。


<どういうことだってばよ!?>

<マグロ釣りwww>

<なんでかずやんw>


「マグロは流石に…探索者業とは関係ないような…」

困惑した声で返答した俺に向かって四ツ谷さんの顔は真剣そのものだ。


「あぁ…普通のマグロなら、かずやんには依頼しない…特殊ダンジョンのダンジョンブレイクを検知した」

<!?!?!?>

<まさか…マグロって…大間の海中ダンジョン!?>

<ダンジョンブレイクってもあそこは毎年恒例だから、S級ランクの探索者が待機しているはずだろ?>

<毎年、クレイジーマグロがなぜか1匹ダンジョンから出てきて海を荒らすんだよな…>

<それを討伐してからーの、新年の大間の初競りまでが一連の流れだよな!>

<海中にダンジョンがあるから、探索者も手が出せず後手後手に回ってるんだよね…>


「ああ、例年だとSランク探索者が討伐に当たるんだが…イレギュラーだ」

「イレギュラー…」

「ああ…今回はSランク探索者の赤羽トランジスタのパーティーが担当だったんだが…牡蠣をバカ食いする配信をして運悪く当たったらしいんだ…」

「バカ食い…」

「ああ、そして運悪くそういう時に限って…ダンジョンブレイクを検知したんだ。

しかもイレギュラーっぽい反応があって…年明け初競りは漁師の一大イベント、漁業協同組合から確実に年末までに討伐できる探索者を寄こすようにという話があったんだ」

クレイジーマグロの討伐はSランクでも下手したら失敗する可能性がある…というのも海上討伐は実力を発揮できないことがあるからだ。

しかもそのクレイジーマグロのイレギュラーとなるとSランク探索者も苦戦すること必須だろう。


「わかりました。年末はできれば家で過ごしたかったんですが…行きます」

「すまない…大間の特殊ダンジョンでイレギュラーは発生したことはなかったからな…ギルドの準備が悪かった」

まあ…Sランク探索者を配置するだけでも、ギルドとしては仕事をしているようにも思うが今回は探索者側にも問題があるだろう。

これについてはあとあと、こってりと絞られることだろう。


「かずやん、車を呼んだのですまないが現場に向かう準備をしてくれるか?」

「ちなみに、討伐を配信しても?」

<いやいやwwまさかの配信する気かw>

<はじめちゃんの仕事が増えるねww>

「ああ…かまわないが…討伐は必ずしてくれるかい?」

「わかりました」

「ふむ…マグロ…か。いいだろう。俺も一緒に行こう」


…沈黙が訪れる


「む、武蔵境氏も行ってくれるのか!?」

「ああ、かまわない。年末年始に予定はない。年末年始にマグロ料理を食せるのであれば行く価値はあるだろう」

年末はわかるが…年始もマグロを食べる気でいるんだろうか?


とりあえず、マジックバックからダンジョンの湧き水を取り出して飲み酔いを醒ます。

横を見たら武蔵境さんも湧き水を飲んでいた。


「防寒着や探索に必要なものは青森のダンジョン担当が準備していますので、このまま向かってください」

神田さんも通常の状態に戻っているのかキリッとした表情でテキパキと進めてくれた。


「見てくれている皆さん、緊急対応のため配信はこれで終了します。大間の配信でまた会いましょう!」

<【5,000円】乙ー!>

<年末もかずやんの配信が見れるから結果オーライ!>

<武蔵境さんと共闘…一体どんな配信になるんだろう>

<一瞬で無双して終わりとか普通にありそうwww>

<安心して見れる配信だなw>

<おつー!!>

<次回も期待!>

<【1,000円】はじめちゃんの年始の仕事確定wがんばってー笑>

「うーん…今日だけでも編集作業増えすぎっすよ」

「マグロ支給でよければいくらでも切り身を持って帰ってくるぞ?」

「はぁ…わかったっす。マグロの変わりに現金支給で頼むっす」

また難しいことを言うな。



酔いが醒めた俺と武蔵境さんは家にきた黒塗りの車に乗り込み、大間を目指すのであった。


―――――――――――

「★★★」や「ブクマ」いつもありがとうございます!


マグロは生でも、火を通しても美味しい魚ですよねー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る