第109話 納会(4)はじめてのりょうり

「ち、ちなみに…料理経験は?」

「ふむ…全くないな。とはいえダンジョンでは飯を摂取する必要はあったからな、モンスターを適当なサイズの肉片に斬り、塩を振って焼いて食べるぐらいはできる」

うん…そんな自信を持って言われても…。

「ただ…まあなんだ、流石に生の肉を食うわけにもいかず肉を焼くとだな…どの肉も真っ黒でジャリっと苦い仕上がりにしかならんのだ」

うん…肉も焼けないってことでいいのかな?肉は外は強火で少し焼き色をつけて、中は弱火~中火でしっかり火を入れるのが定番ではあるが…初心者は強火で火を入れて、中が生焼けだからさらに強火で焦がすんだよね。

特に外だと火加減が難しいからやらかしやすいんだよね…。

<不器用な武蔵境さん…>

<戦闘力はあるけど料理力はない…っと>

<キャンプで肉を焦がした経験あるわー…>

<火加減難しいよね。俺も良く生焼けに焼いてしまうわ…>

<かずやん、悩んでるww>


うーん…どうしたものか…。

「やはり難しいのか?」

「いえ、じゃあサソリっぽい肉を使って調理してみましょうか?」

一般的なサソリは素揚げだが、このサソリっぽいのはサイズがバカでかく殻を剥くとプリッとした肉が出てきた。

少し削いで焼いて食べてみる。一般的なサソリはカニっぽいと言われるが、こいつは…鳥のササミっぽい肉質でほんのりカニ風味。

まあ肉にこだわりはないが、この肉なら考えているレシピにも合うだろう。

「今回用意するのは、どんな肉でもいいんですが鳥肉、豚バラが合うと思います。今回はダンジョンで取れたこのサソリの肉を使いたいと思います。あとは…適当なキノコ、今回はマイタケのエノキを用意しましょう。あとはカット小ネギがあると良いと思います。

そして今回この料理を…武蔵境さんに作ってもらおうと思います!」

「料理は不得手だが…よろしく頼む」

「ではまず…サソリの肉を適当な…人差し指と中指ぐらいのサイズ感でカットしてみてください」

まな板の上にサソリの肉を置き、左手でサイズを測り、右手の包丁を振り下ろす。肉を抑えてないので包丁を振り下ろす毎に肉は跳ねる。

また包丁の使い方が間違っていて繊維は切れても肉は切れていない。

「む、武蔵境さん、包丁の使い方は、包丁は振り下ろすのではなく、肉に垂直に当てて、引くときに少し力を入れたら切れます!

あと、肉のサイズはあくまでもそれっぽいサイズになれば大丈夫なんで、左手で肉を押さえて切ってください。

ただ…ちょっと不安を覚えたので今回はこの調理バサミを使って切ってもらっていいですか?」

「う、うむ…なるほど、いつも動くモンスターを刀で適当に切ってぶつ切りにしていたからな…包丁を使ったことはないんだ…」

ハサミを受け取り、チョキチョキ肉をカットしていく武蔵境さん、なんかレアな光景だな。

<刀でぶつ切り…>

<ワイルドすぎww>

<包丁を使ったことがないって…マジかよ>

まあ初手で焦りはしたが、一先ず肉は切れた。

「じゃ、じゃあ気をとりなおして…マイタケを手で裂きます。あとエノキは根本…指二本ぐらいのところをハサミで切ります」

本当はハサミを洗ったほうが良いのだが…今回は全部火を入れて調理するので細かいことは気にしない。

「切った断面に茶色いのが混じっていたらもう少し切りましょう。そうそういい感じですね。きれいに切れたら手で適当なサイズ…指の太さぐらいでいいんで裂いていきます」

「マイタケもそうだが、エノキも簡単に裂けるんだな」

「武蔵境さんは普段…一体何を食べてるんですか?」

「ん?ダンジョンだとそうだな…モンスターを焼いて食べる以外は野菜ジュースを大量にマジックバックに詰め込んで摂取するようにはしている。あとはバランスメイトだな。完全栄養食さえあれば栄養不足に陥ることはないだろうしな」

「なるほど…まあ人ぞれぞれですが、食の楽しみがないとダンジョン探索辛くないです?」

<ストイックというか…>

<ズボラというか…>

<武蔵境さんのイメージ通りだな>

<バランスメイトは確かに激務のときに丁度いいよな。人間辞めてる感が出てくるけどw>

<確かにあったかい、旨い飯を食うだけでも生きてる感を感じるよな…>

<ダンジョン探索中は俺もバランスメイトだわ…。どうしても荷物の量を減らす必要があるしね>


「まあ食事は栄養が取れればよいからな。それよりも俺の知らない未知のモンスターと相対するほうが楽しいし滾る」

料理<戦闘かー…うーん。まあその気持ちわからなくはないこともないけれど…。

<さすが戦闘民族!>

<SSSランクマジパネェわ…>


「下準備はそれぐらいで…では調理してきましょうか!とりだすのはホットサンドメーカーです!」

「ほう…フライパンっぽいのが2つくっついているのか…また変わった器具だな」

「これは結構便利なんです。最初なんでこの小さじのスプーンを使って油を一杯ホットサンドメーカーの片面に入れてもらってもいいですか?慣れてきたら感覚で入れてもらって構いません」

「ふむ…こんな感じで良いか?」

軽量スプーン一杯分の油をホットサンドメーカーに入れる武蔵境さん。油をスプーンに注ぐときのプルプル具合が料理慣れしてないのを物語っている。

<あー初心者あるある。めっちゃ慎重にやろうとしたらプルプルするよねw>

「あぁ…いやスプーンに氣を纏って慎重に注がないと、こんな細い鉄の棒、一瞬で折れてしまいそうだからな…」

<これだから脳筋は…>

<まさかの強度の問題www>

<力加減www>

「ははは…油を入れたらサソリの肉を一切れ掴んでその肉で油をまんべんなく広げていきましょう」

本当は火を入れて伸びるようになった油を全体に伸ばせるならそれでいいんだが、空焚きって感覚がつかみにくい人も多いからね…。「油をまんべんなく広げたら肉を全部入れて、蓋を閉じて両面を焼いていきます。

蒸し焼きに近いので、焼き色を付けつつ中まで火を通しやすいんです」

「ほう、これは…便利だな。フライパンが両面にあるから、肉をひっくり返さなくてもフライパンを返すだけでいい。しかも生焼けもしにくくなるとは…この器具を購入することを検討しよう」

「では、蓋を開けて肉の片面に焼き色が付いたか確認します。うん、いい感じに焼き色がついてますね。ではここに調理酒を入れます。日本酒でもいいんですが日本酒を使う場合は肉を焼くときに軽く塩を振ってから焼いてください。調理酒を入れたらキノコを入れて蒸し焼きにしていきます」

「ほう…肉のいい匂いがしてくるな」

「ただ蒸し焼きにすると肉汁が抜けてしまうんですが、酒蒸しにすることで肉のジューシー感を残すことができるし水分で焦げにくくなるんですよ」

「なるほど、酒蒸しというのは考えられているんだな。ちなみに日本酒ではなく調理酒を使うのはなんでだ?」

「調理酒には普通に飲まないように塩分が含まれてるんです。ただ日本酒は含まれてないので今回の料理では塩を足す必要があるんです。料理に慣れてきたら日本酒だけあれば、飲むことも料理にも使えていいと思いますよ。」

「ふむ…そんな違いまであったのか…。」

「さて、アルコールが飛んでいい塩梅に仕上がってきたら蓋を開けて容器に移しましょう。あとはボールにポン酢と刻みショウガとカット小ネギを加えて軽く混ぜたタレを回しかけたら完成です!」

「おぉ…これが俺の作った料理か」

「そうですよ!酒蒸し香味野菜のポン酢掛け、ミョウガや大葉を入れても爽やかさが出ていいと思います」

<おぉ…旨そう>

<シンプルな調理工程だけど、絶対ウマイだろ>


「ささっ武蔵境さん、ぜひ食べてみてください」

「あ、ああいただくよ」

肉とキノコを香味野菜をたっぷり乗せて食べる。

「ふむ…エノキの食感と、マイタケの旨味が肉とマッチしている。酒蒸しで肉はしっとりジューシー、サッパリとしたポン酢もまたいい。これを…俺が作ったのか」

自分が作ったというバイアスもあるが、良い感じに仕上がったようだ。

<日本酒とか、ビールとかめっちゃ進みそう>

<俺も食いたいなー>

<家にある材料で作れそうだから作ってくる>

「ちなみにレンチンで酒蒸しを作ることもできるので、火を使うのが苦手な人はレンチンで試してみてください、あと七味を振りかけてもいい味変になっていいですよ」

七味を掛けて食べる武蔵境さん。

「うん、ピリッとした味が加わって、これまた旨いな」

日本酒をグイっと飲んで、うなずく武蔵境さん。なんか絵になるな。


そう言ってると、じーっと視線を感じる。

「武蔵境さんだけ旨そうなものくってるっす!ずるいっすよ」

「がはは…ちょっとサッパリしたものが食べたくなってきたところだ」

「はいはい…わかりましたよ!」

俺はサクッとフライパンで酒蒸しを作り、周りにいたメンバーも続々と食べ始めては酒を飲んでいた。

「レモングラス炒めやブリワットも美味しかったですが、こういう味ホッとしていいですねー」

ビールをクイッと飲んで浦和さんが言う。

「あぁ…サッパリおいしーっ!…あっ…お酒なくなった…おかわりおかわり~♪」

一升瓶を空にした国立さん…まだ飲むのか。

<おいおい…くにやん、日本酒何本目だ?>

<2本空けてるのを見たけど…>

<表情一切変わってないんだが…>

<マジ…かよ…>

<酒豪ってレベルじゃねーぞ…>

うーん…健康診断しっかり受けてもらって結果次第では酒の量を減らしてもらわないとな。


~後日談~

国立さんに健康診断を受けてもらったが…全く異常がなかった。

まじかよ…。


―――――――――――

酒蒸しってなんでこう美味しいんでしょう。

ただ料理酒は塩分が濃かったりするので、日本酒で作って味を足していくのが個人的には好きだったり。

肉もいいけどアサリの酒蒸しも寒い日にはうれしい一品。

食べ終わった後の出汁がまたいいんです…。

日本酒に足して飲めばまた…っと止まらなくなるのでこれぐらいで!

…4000文字は流石に多すぎ?

2話に分けたほうが良かったですかね…?


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