第83話 悲しい男(2)
四ツ谷はイスに深く腰掛けていた。
「かずやん…」
深層攻略を成し遂げた偉業に日本国中で醒め止まない熱の中、SSSランクに昇格すべきかを考える必要があった。
何も知らなければ、長老に次ぐ実績ということで、もろ手を挙げてSSSランクの昇格に向けて事を進めていたが…
独自に進めていた調査の中で、暗躍する組織の存在と、本来の武蔵境氏の実力を…はっきりとは言えないが把握したことで迷いが生まれていた。
だがかずやんの実力は武蔵境を除く、ほかのSSランク探索者と比較すると頭一つ飛びぬけている…これは紛れもない事実だ。
またSSランクの食材を摂取することで、ステータスアップが行われていることを確認した以上、かずやんはよりSSSランクにふさわしい存在になっていくことだろう。
ただ…武蔵境氏のステータスを確認してしまうと…どうしても比較してしまう。
前回のダンジョンブレイクを未然に防いだ際の彼のステータスは、世界最強のSSSランク探索者よりもステータスが高かった。
だがステータスを把握した俺は、彼をSSSランクに上げるために動いたが、途中で圧力が掛かりランクアップは許されず、日本探索者のSSランクの中で最もSSSランクに近い存在のままとするようにと国から通達を受けてしまった。
ギルド本部の局長という立場ではあるが、俺の立ち位置は決して高くはない。
とはいえだ…国に対して圧力を掛けることができる組織の存在を意識しないようにするのは無理があるだろう。
その組織に属しているであろう、新宿のダンジョンブレイクを収めた実績を持つ長老。
その新宿ダンジョンの深層部分のダンジョンブレイクは、長老のパーティーだけで鎮めたと記録が残っているが…
非公表だが、長老個人の実力は深淵層踏破という広い世界を探しても一人しかいない実績を有している。
探索者自体が少なかった過去の話とはいえ、その事実を全世界を相手に隠し通せていること自体疑問でしかないが…相手はそれを可能とする組織…。
いやもしかすると、知れ渡っているが口止めしているのかもしれない。
だが…どちらにせよだ。
何も知らぬ体で、ことを進めるべきか、波紋を起こすか…。
かずやんはこのまま深層を踏破し続けて、モンスターの料理を続ければ、近い将来深淵層に挑めるだけの力をつけることができるはずだ。
だからこそ、ことを急ぐ必要はないと俺は考えてはいるんだが…。
コンコンっと扉が叩かれる。
「入っていいよ」
「失礼します」
神田君が入室する。
「和也様のSSSランク昇格に向けた手続きを実施したく、書類を用意しました」
俺の机にドサッと置かれた資料と、早く見ろという視線を感じる。
専属サポーターという立場からも、深層を踏破した以上はSSSランクに上げたいという思いがあるのだろう。
パラパラと資料を見つつ…。
「かずやんのSSSランクの昇格を見送るというと神田君はどう思うかい?」
「ありえないと提言しますね。であればSSSランクを認める指標、基準を出していただきたいと思います」
「そうだろうなー…」
そう一般的にはかずやんの実力があればSSSランク昇格といわれて誰も疑問に思わないのだ。
「何か和也様に問題があるのでしょうか?」
「いや…かずやんには何も問題がないよ」
「であれば、見送る理由はないと思いますが…」
ふぅー…と息を吐いて、思考を整理していく。
資料は実績がまとめられていて、読む限り十分な内容が記載されていた。
流石神田君、仕事ができる。
俺の個人の思考を反映しすぎて、一般的な感覚を逸脱しすぎるわけにはいかないか…独断が過ぎると組織の思うつぼになるかもしれない。
「わかった。SSSランク昇格に向けての手続きを進めてくれるかな?」
この先に待ち受ける何かを想像しつつ、かずやんならきっと乗り越えられるだろうと…思うことにした。
「では、この書類で申請を進めようと思います」
「よろしく頼む。そうだ神田君。良かったらこの後時間があるかい?」
「時間…ですか?」
「ああ、最近この近所に焼き鳥の美味しい店ができたらしいんだが…良かったらこの後一緒に行かないか?」
「すみません…和也様の手続きでやることがまだ残ってまして…まだこの時間なら受付の子たちもいるので私ではなくその子たちを誘ってみてはどうでしょう?」
では失礼します。と神田は部屋を後にした。
脱力し椅子に深く腰掛ける。
「か、かずやん…」
四ツ谷以外いない部屋で悲しい男のつぶやきが響き渡った。
―――――――――――
四ツ谷さん…すまねぇ…
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