第78話 深層配信(11)

フェンリルと距離を取る。

「昔の俺はこいつをどう対処したんですかね…」

<どーぜ踏破してなったんだろw>

<はいはいアンチアンチ>

<かずやんの狂暴化バーサークの一撃もロクに効いてなさそうだし…>

<ここまで来ただけでも十分だって…>

<想像のつかない過去>


心配するコメントが多く見える。

さっきの攻撃だとやっぱりそう見えるよね…。


「情けない感じですみません。今の自分の状態だと決めるのに時間が掛かっちゃうので…これから一気に勝負を仕掛けます!狂暴化バーサークLv2!!」

<えっ?Lv2?>

<Lv2!?>

<今より強くなるの!?>

<いやいや…流石に…>

<奥の手ありすぎww>

<マジかよ>


身体中を巡る氣が膨大に跳ね上がり、自分の体から自然と吹き出し始める。

全身が燃えるように熱く、氣のコントロールが出来なくなっていく。


狂暴化バーサークLv2は、自分自身のリミッターを外し、氣を暴走させ爆発的な破壊力をもたらす。

反面、氣のコントロールができなくなるので相手の攻撃に対して手薄になる。



バチバチッ雷撃が皮膚を焼く。

こちらの異常を感じ取ったか、フェンリルが俺の変化に焦りを感じているようだ。


「やられたら…やりかえす!1000倍返しだ!」

その場にとどまり砲台となったフェンリルは無数の雷撃を飛ばしてくる。

ロクにガードもできず、何度も何度も肌を焼かれながらも距離を詰めていく。


「いいねー犬っころ。ぴりぴりってマッサージみたいで心地よい…よっ!!」

俺の間合いにフェンリルを捉える、俺の攻撃の初動に反応したのか雷撃を止めて距離を取ろうとするも――


「遅い!」

拳を振り落とす。

地面が割れフェンリルの顔面を地面に縫い付けた。

ギャンッ肺から空気の抜ける音が出る。

割れた地面の破片で白い毛並みが赤く染まる。


一瞬意識の飛んだように見えたが、ガクガク足を震わせながら立ち上がってくるフェンリル。

「GYAAAAAAA-!!!!!」

血反吐を吐きながら意地の咆哮をあげる。


「フェンリルの最終形態ですね…」

命を燃やし自身を焦がす紫電を纏った最終形態。

靄が掛かり姿が消える。


姿を見つける前に、腹に衝撃が走る。


「ぐはっ…」

衝撃と共に雷撃が身体を焼く。


スッと少し離れたところに姿を現すフェンリル。

光速のヒットアンドアウェイ。


ただの体当たりも光速と雷撃が合わさると…想像以上の一撃を生みだした。


「ぐふっ…」

ただ…その一撃を放つには大きな代償が必要なようだ。

目の前のフェンリルも口から血を吹きだした。


光速に身体が追いつかないようだ。

先ほどよりガクガクと震えていることから立ってるのもやっとで、この体当たりもあと数撃で限界だろう。


そういう俺も、さきほどの一撃は効いた。

アドレナリンの大量分泌で痛みはさほど感じないとはいえ、芯に響いた一撃は立っているのがやっとだ。


「次で最後になりそうです。見ていてください!」

パンッ右こぶしを左の手のひらにぶつけて気合いを入れる。

<早すぎてわからんけど…これはヤバすぎだろ…>

<【50,000円】「武蔵境」フェンリル…滾りそうだな>

<【50,000円】「姫っちゃん」師匠…師匠なら倒せます!>

<【50,000円】「パンプキン」かずやんさんやっちゃいましょう!>

<【1,000円】かずやん…ファイト!>

<歴史が動くぞ!>

<【10,000円】馬鹿にして悪かった!深層を突破してくれ!>

<うぉー!!かずやーん!!>


フェンリルの姿が消える。


シンッと静まり返る空気――


勝負は一瞬


光を感じるその瞬間に、俺は拳を突き出した。



破壊音が響き渡る。



拳に毛皮の感覚を感じ、バチバチと手を焼くがこの拳の勢いを止まるわけにはいかない。



歯を食いしばり、拳を振り抜くと、受け身の取っていないフェンリルが何度も地面を跳ねてそして止まった。


「ふぅ…ガハッ」

狂暴化バーサーク状態が強制的に開放される。

ブシューっと気化しつつ、アドレナリンの大量分泌で薄れていた痛みが一気に身体を襲う。


「あああああー!!!!うがぁあああ…」

激しい激痛にのたうち回る。

痛みで意識を飛ばしそうになるも、なんとかマジックバックから深層の湧き水を取り出し一気に飲み干した。

飲み干したそばから、身体が治癒力を高め修復しようと全身を巡る。


焼けた皮膚が、折れた肋骨が徐々に再生していくのを感じる。

その度に身体を襲う猛烈な痛みに…耐えきれなくなった俺は意識を飛ばした。


……

…………


<おーい、かずやん…無事か?>

<かずやんピクリともうごかんぞ?>

もぞもぞ


<ん?かずやん動いた?>

<ま?>

「あー…意識飛んでました。どれぐらい飛んでました?」


<5分ぐらいかな?…そんなことより…>

<【50,000円】「武蔵境」最高に滾ったぞ!>

<【50,000円】かずやん!深層踏破おめー!>

<【50,000円】深層踏破おめー!>

<【50,000円】まじすげーよ!>

<【50,000円】日本の歴史が動くぞー!!>

<【50,000円】かずやん最強!かずやん最強!かずやん最強!かずやん最強!>

<【50,000円】「パンプキン」かずやん最強!かずやん最強!かずやん最強!かずやん最強!>

<【50,000円】「姫っちゃん」し…かずやん最強!かずやん最強!かずやん最強!かずやん最強!>

<【50,000円】かずやん最強!かずやん最強!かずやん最強!かずやん最強!>


しばらくかずやん最強コールと赤スパが止まらず、コメント欄を埋め尽くした。



「さて…、フェンリルを無事討伐したので…お昼ご飯にしましょう。もうお腹ぺっこぺこです…。もちろん食材は…こちらのフェンリルです!」

<フェンリルって伝説の神獣じゃなかったっけ?>

<フェンリルって食えるの?>

<まじかー…>

<さすが、かずやん>

<切り替えが早すぎるwww>

<ニュース番組かずやん一色だわ>

<まじか…まじだw>

<そんな中、当人は平常運転に戻って料理配信を始めるのだった>

<コメントで〆るんかいw>


―――――――――――

次回、ダンジョン飯!


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