第76話 深層配信(9)

狂暴化バーサークLv1」

怒りの相乗効果で、普段よりも身体が熱く燃えているように感じる。

拳に纏った氣も一回り大きくなった。


「タコ殴りにしてやんよー!」

気の抜けたセリフ回し。

案の定――

<緊張感ー!!>

狂暴化バーサークってこんな感じだったっけ?>

<もっと言い方ってものがあるじゃろw>

<なんでこう抜け感があるんですかねー>


視聴者の皆さんの反応は上々だ。

地面を蹴り、ゴールドバックコングとの距離を一気に詰める。


余裕をかましてノーガードのゴールドバックコングの懐に入り込んだ俺は、溜めに溜めた渾身の右ストレートをゴールドバックコングの腹にブチかました。


「グェ!!!」

殴った勢いで、目を見開いたゴールドバックコングの足が宙を浮く。

前のめりで崩れ落ちるも、一撃必殺とはならずガバッっと身体を起こすと、自分の腕を支えに立ち上がる。


ゆっくりと立ち上がるも、その膝が震えている。

必殺とはならなかったが、かなり効いたようだ。


バチンッ、手のひらで自分の頬を叩き、フゥっと気持ちを落ち着かせたゴールドバックコングの表情は先ほどの馬鹿にしたようなものではなく、獲物を前にした時に見せる眼光の強さと表情に変わっていた。


「気合い入れなおしたようだけど…第2ラウンド開始できる?」

最初から手を抜かなければ、もう少し善戦できたかもしれないが…。


ゴールドバックコングは膝が震えてまともに踏ん張れない状態、そこから繰り出される腰の入っていないパンチは…脅威ではない。

<かずやんをなめてかかるから…>

<膝震えてるけど、めちゃくちゃパンチはえー!>

<Aランクの俺氏、この状態でも勝てなそう>

<Aランクって上位探索者じゃん!?>

<腐っても深層のモンスターってことか…>

不意の一撃で勝負が決まりそうということもあって、視聴者を幻滅させてしまわないかと思ったが…杞憂のようだ。

ただ…もう配信の伸びしろないんだよな…。


「うーん、もう少し出来高が欲しかったけど…仕方がないですね」

そういう間も、左右連続ワンツーパンチが飛んでくるも、先ほど同様…威圧感を全く感じない。

ただデカいだけの拳を軽くいなしながら、左ジャブを駆使して相手との距離を調整しつつ、振り抜いた右の拳がゴールドバックコングの顎を捉えた。

ゴールドバックコングの顔が激しく揺れる、力が抜けたか膝から崩れ落ちていく。


前のめりに倒れると、今度は立ち上がってこなかった。


<まじかー…手を抜いて負けるとか…>

<なめプで負けるのダサすぎww>

<ただどんな形であれ勝ちは勝ち!次フロアボスや!>

<まじかー深層フロアボスくるぅー!>

<深層踏破が見えてきた―!!>

<これで勝ったと言えるのか―!?>


「次はフロアボスですねー!」

シューッと全身の熱が気化し一気に放出される。

連続使用で身体が慣れてきたのかスキルに習熟度なんてものがあるのかわからないが、スキル使用時の疲弊具合が減ってきたように感じる。


ただ、昔はスキルを使わず倒していた相手も今は狂暴化バーサークを使わないとダメージが通らない。


これは退化したのか?それとも別軸にシフトした進化の過程なのか…。

今後も続けていく探索者人生の中でその答え合わせをしていきたいと思う。


7時から探索を始めて、現在9時半フロアボスを前に最後の休憩をとることにした。


「次はフロアボスなので10時まで休憩して挑みたいと思います!」

<おつー!>

<俺も朝ごはん食べてくるー!>

<最後の休憩!>

<おっつー!>

<10時がめっちゃ待ち遠しい!>


コメントを見てコメントを返しつつ、キリの良いところで配信を一時停止する。


まずは…疲れた身体への栄養補給だ。


マジックバックから湧き水と粗挽きしたコーヒー豆とパーコレーターを取り出した。

パーコレーターというのはコーヒーを抽出する道具で、ケトルとストレーナーとケトルの蓋の構成になっている。



使い方は、ストレーナーをケトルから取り出し、ケトルに湧き水を入れて沸騰させてる。

沸騰させている間に、取り出したストレーナーのスタンドに粗挽きのコーヒー豆をセットして蓋をする。

ストレーナーをケトルの中にセットしたら、火を弱火に調整してじっくりとコーヒーを抽出していく、3分ほど抽出したら完成だ。


紙フィルターを使わないのでコーヒーアロマが取り除かれず、香り豊かな仕上がりとなる。



「うーん…コーヒーの香りに癒されるー」

コーヒーの味と香りを楽しみつつ、マジックバックからガッツリカロリーが補給できるエネルギーバーを食べて気力と体力を回復する。



3層はウェアウルフを相手に怪我をしたし、4層のゴールドバックコングは明らかに手を抜いていた時に不意の一撃が入って無傷ですんだが、最初からフルスロットルの状態だったらこうもうまくいったかはわからない。


フロアボスは手加減などしてこないので、最初からガチのぶつかり合いになりそうだ。

いざとなった時に身体が動かなかったら命にかかわるので、念入りにストレッチして本日最後の戦闘に向けた準備を行っていく。


時刻は10時…さあ本日最後の配信だ。


―――――――――――

パーコレーターって…使ったことある人のほうが絶対少ないですよね


「★★★」や「ブクマ」いつもありがとうございます!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る