第75話 深層配信(8)

狂暴化バーサークで食材としての価値がなくなるかもと思ったが深層のモンスターは頑丈だった。

原型をとどめていたウェアウルフを食材と素材に解体を済ませた俺は、深層4層に足を踏み入れた。


朝から始めた3層も約1時間で攻略といいペースで攻略できている。

4層に入った後も、何度かモンスターとの戦闘を繰り広げつつ先に進んだ。


「さて、残すところあと2層となりました。地形がそこまで変わってなければそろそろフロアボスの階層に続く道が見えてくると思うんですよねー」


5層に向けて歩みを止めず、記憶を呼び起こそうとしていると、目の前に1体のモンスターが見えた。


金色の背中の毛が光で照らされギラギラと輝きを放つ――


ゴールドバックコング


あー…4層はこいつが出てくるのか…。

そのゴリラは俺より二回りぐらい大きく、胸板の厚さと、両方の拳のサイズが体格と見合っていないぐらい大きいのが特徴だ。

その拳から、ボクシングコングという別名で呼ばれることがある。


自分のテリトリーに入った同族だろうが、格上相手だろうが気にせず突っかかり、殴り殺すまで攻撃の手を緩めることがない特徴がある。


それもあって同フロアにいるモンスターもウザ絡みしてくるこいつに近づこうとしない。


ソロという点では同じソロ配信者の俺としては、ゴールドバックコングの近くにはほかのモンスターがおらず目の前の相手との戦闘に集中できるのでウェアウルフより戦いやすいと思っている。



視界の端には、5層…フロアボスがいる階層へ続く階段が見えたが、そこに行くまでにはゴールドバックコングのテリトリーに足を踏み入れなければならない。


「さて…皆さん。あと少しで5層フロアボスです!ボスに挑むためにも目の前のゴールドバックコングを倒しますよ!ちなみにですが…ゴールドバックコングの肉はタイヤのゴムみたいな硬さで、たとえ強靭な顎を持ってたとしても人間である以上は食べれません!ソースは俺です。ただシチューとかの煮込み料理で、めちゃくちゃ時間を掛けて煮込むと筋繊維がほぐれて食べられるかもしれません!持って帰れるようだったら試してみようかな?と思います!」

<食べようとしたことあるんかいww>

<人間をやめたかずやんでも食べれないなんて…>

<なるほどただの筋肉か>

<見た目イカツイなー>

<食への執念よw>

<ゴールドバックコングを全力で叩いて肉を柔らかくした動画とか需要ある?>

<ゴールドバックコングってどんなモンスターなん?>

<別名ボクシングコングっていうらしいぞ?>

<テリトリーに入ったらどんなモンスターでも構わず殴りに行くとか?>

<なんでも、強烈な右ストレートは衝撃波を発生させて周囲を破壊するとか…>

<衝撃波って…ボクシング関係ないやん!?>

<まあ…あの手がグローブっぽいってことでついた名称だしな!>

<命名雑!!>

<でも、近接戦闘が得意でワンツーやフリッカーとかを駆使するとか…>

<うーん…とりあえず殴るのが好きなイカレタやつってことは理解した>


「はい、皆さん説明ありがとうございます!ゴールドバックコングについてはコメント参照してください!ってことで…奴のテリトリーに入りたいと思います!」

<かずやんの俺たちの扱いよ!>

<視聴者に説明させた…だと?>

<【666円】絶許!絶許!絶許!>


<姫っちゃんのこと以外に噛みついた絶許さん!>

<なんにでも噛みつく絶許さん、そこにしびれる憧れるー!!>

<【2,000円】ボクシングゴングさんかずやんにお灸をすえてやってください!>


「皆さんのおかげで成り立っている配信です!あと…モンスターじゃなくてせめて俺を応援してくださいよ!!では改めて…テリトリー入りますよー!」

テリトリーに入る瞬間、薄い膜に触れたような感覚を感じたが、それも一瞬のことだった。


ただドシッドシッと地面を踏む足音が近付いてくる。

「ウホホウホー」

テリトリーに入った俺を見つけたからか、ゴールドバックコングは自分の分厚い胸板を激しく叩き辺り一面に響き渡る大音量の破壊音が響き渡った。


ゴリラのドラミングは小太鼓のようだと表現されるが、ゴールドバックコングのそれは鼓膜に響きわたり、衝撃で地面が揺れる。


「うるせー!!!」

氣の刃を作り出してぶん投げる。

ドラミングを止めたゴールドバックコングは、避けるわけでもなくドラミングしていた胸板で氣の刃を受け止めた。


「ウ、ウホホ??」

小指で鼻をほじりながら、頭をポリポリしながら「蚊でもぶつかったか?」というような感想を漏らしているように見えるゴールドバックコング。

プッっと笑いを漏らし、馬鹿にしている感がヒシヒシと伝わってきて地味にむかつく。

<そうそう、同族と格上には突っかかるけど、格下はおもちゃのように扱うらしい…>

<あー…だからこんな対応なのか…>

<かずやん;;>

<やっちゃえ!>

<【5,555円】かずやんの…本気の一撃みてみたい!>

<【555円】少ないですが…かずやんさんやっちゃってください!>

<普通にむかつくなw>

<ゴリラなどかずやんの敵でないというところを見せてください!>


「そうですね!じゃあ…やっちゃいましょうか!」

両手を握りこみ、拳に氣を纏わせる。


さぁ…馬鹿にしてくれたんだ…。

100倍返ししましょうか!


こちらにケツを向けペンペンと叩いたあと放屁したその姿に…。


…キレちまったよ。


―――――――――――

深層編がここまで長くなるとは…。

もうしばらく続きます



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