第71話 深層配信(4)

深層二層に到着した。


景色は一層と変わらないが、マジックラビットのような気配は感じない。


深層一層はマッハラビットの群れを相手にするだけで済んだこともあって、1時間で踏破することができた。

時刻は18時を回ったところ、今日の目標は深層二層のセーフゾーン早ければ19時ぐらいにはたどり着けるはずだ。

探索を初めて6時間、少し休憩を挟んだとはいえ、ほぼぶっ通し注意力が散漫になりやすいので気を引き締めなくてはならない。



ずっと氣を張り詰めていると微量ながら体内の氣は消費されていく。

俺も探索を始めた当初は、モンスターと戦闘を繰り返して、気が付かないうちにすっからかんなんてことを何度も経験をした。


今はまだ氣力が十分に残っているが、この先を進めていくにはもっと効率的に氣を運用する必要があるな。


「さて、二層に到着しました!セーフゾーンは三層手前にあるので、そこまで一気に駆け抜けたいと思います」


この二層はモンスターがほとんど出てこない、いや


なぜなら――



二層も半分ぐらいまで歩いたところでゴリゴリっと地面を削る音が聞こえてきた。


この2層で出現するモンスター…ジャイアントヒル。


草原や山岳フロアに生息し、地中を住みかにしている。

層を行き来し、下層直通の落とし穴を作ったりと結構厄介な存在だ。

成長しきった存在になるとダンジョンフォールを作り出しダンジョンの地形すら変えてしまうとか…かなり厄介な存在だ。


食欲旺盛でダンジョンで生まれ落ちたモンスターや地層を片っ端から食って成長を続けている。


…そんなことを思っていたら俺の足元が隆起する。



地面を蹴りその場から大きく距離を取ると同タイミングで、周りの地面を破壊しつつ地面からそいつは頭を出した。


アイス・ワームよりも数周り大きく、全身つかみどころがないヌルヌルテカテカの粘液が纏っていて、黒い斑模様をした生理的に受け付けない気持ち悪い見た目と、そして無数の歯を覗かせるグロテスクな口をしていた。

あの歯は口の中まで続いていて、口に入ったら最後、俺が氣を纏って防御力を高めたとしても氣ごと粉砕されるだろう。



まああの巨体、地中を潜る速度はかなり早いが、地上に出てしまえば自重を支えるのがやっとのノロマ。

未だに飛び出たところでウネウネしている。

そうなったら…先手必勝だ!


氣の刃を飛ばす。

それなりの勢いで胴体に氣の刃が当たるも、ジャイアントヒルを覆う粘液が刃を通さずズルリと背後に流れていく。

そのまま背後の壁に突き刺さり消える氣の刃…。


「さて…2層の主ジャイアントヒルです。2層にいたほかのモンスターは奴の胃袋に収まっていることでしょう…。食欲を減退させる見た目と、見ての通り氣の刃が通らないので、まともにやりあいたくはないですね…」

<うげぇ…物理的に無理…>

<ヌメヌメ…>

<あれって地層喰いだっけ?>

<食ったモンスター分強くなるんでしょ?>

<アイス・ワームと全然サイズ感ちゃうやん…>

<こんなのどうやって倒すんだよ>

<粘液で物理が効かないとかかずやんと相性悪すぎ>

<これは撤退か!?>

<まーそれも仕方がないでしょ>



「ははは…昔の俺ってスキル発現してなくて…こいつタコ殴りにして倒してたんですよね…。ちょっと人間辞めすぎだと思いませんか?」

<うーん自虐ネタw>

<タコ殴りってマジかww>

<マジだぞw過去の動画見たけど確かに有無を言わせず殴り続けて倒してたぞ…>

<ドン引きなんやが…>

<倒した時、粘液まみれになってたな>

<配信映え絶対しないやつ…>


「流石に配信中に粘液まみれは勘弁なので…サラリーマンになって発言したスキルを使って倒そうと思います。はぁ…やりたくないなー…」

<かずやんがメッチャ弱気になってる>

<なんだ、なんだ!?>

<目がどんどん虚ろになってない?>

<かずやんから負のオーラが…>

<いや負を通り越して…なんか能面みたいな表情になってるぞ>

<おいおい…かずやん大丈夫か!?>

<「姫っちゃん」し、師匠??>

<「パンプキン」ひぇ…>

<これはヤバい顔>



あぁ…社畜時代の思い出が走馬灯のように流れていく…。

感情が…死んでいく…。

気持ちが落ち込んで…死にたくなってきた…。

あぁ…自分を守らないと。


身体を纏う氣が急激に温度を下げていく。

地面に生える草が凍りついていく。


虚ろな目でヒルを見る。

気持ち悪い見た目だ…、こちらに向かってグロテスクな口を開けて、ゆったりとした動きで近付いてくる。


あのドロドロべとべとの粘液が刃を通さず、ブヨブヨの身体は殴打を吸収してしまうので物理攻撃がほとんど効かないから地上でも敵はほとんどいないのだろう。


ただ…それもどうでもいい。


社会人になり気合で仕事を続け、炎上生活も何とか切り抜けてきた。

ただ上司のミスは部下の俺にすべて擦り付け、続くお客さんからの怒号に叱責、尻ぬぐいの日々、精神をすり減らす毎日。

自分の精神を守るため、感情を殺して仕事に励んだ。

そうして感情が死んだ状態をずっと続けて、なんとかそのプロジェクトから解放されてやることもなく、ダンジョンに入ったら記憶がフラッシュバックしたことで発現したスキル――


冷徹感情エターナルフォースブリザード


絶対零度の感情に感化された氣が周囲の大気ごと氷結させていく。

それはジャイアントヒルも例外ではない。


「相手は死ぬ。」

弱弱しい拳で氷結したジャイアントヒルを叩くと粉々になって崩れ落ち…そして決着が着いた。


―――――――――――

技名…


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