第69話 深層配信(2)

コービーブレイクで糖分を補給し、軽くストレッチをしてから配信を再開した。


「ではフロアボスに挑みます!」

深層のフロアボスがいるフロアに足を踏み入れる。


開けた場所に獅子の胴体に、ピンッと上を向いたサソリの尻尾、そしてコウモリの羽――


マンティコアがこちらをジッと見ていた。


サソリ部分の毒針はインド象も一突きで絶命してしまうほど強力な毒で注意が必要だ。

尻尾の部位を食べるには、事前に毒袋を取り除き無毒化しておく必要がある。

ダンジョン外に持ち出さないことを前提とするのであれば、資格がなくても自己責任で無毒化するのは可となっているが、持ち出しするためには毒モンスター調理師という専門の資格が必要となっている。



「マンティコアですねー…旨いは旨いんですが、尻尾の無毒化が大変なんですよねー」

<ここって下層だっけ?>

<緊張感仕事しろよー!>

<あの毒ヤバいんでしょ?>

<無毒化って…かずやん毒モンスター調理師持ってんの!?>

<ダンジョン内だったら資格不要なんでしょ?>

<ただ資格なしで捌いたものをダンジョン外に持ち出すのは禁止されてるぞ?>

<毒袋を検知、解体するための資格みたいなもんだし、かずやんだったら普通にできそう>


「あはは…過去色々あって一応毒モンスター調理師の資格は持ってますよー!」

視聴者と話をしていると、しびれを切らしたマンティコアが地面を蹴って、こちらに向かって走ってくる。


一歩、また一歩っと、地面を踏み抜くたびに砂煙が舞って視界をふさいでくる。

この砂煙の中、不意打ち気味に飛ばしてくる毒針攻撃がマンティコアの必勝パターンとなっている。


ただ、相手の土俵に付き合う気は全くないので、氣を拳に纏わせて思いっきり振りかざし風を起こす。

目の前を舞う砂煙を吹き飛ばすと、想定外を感じとったのかマンティコアの突進がピタッっと止まった。


突き刺そうとしていた尻尾の毒針が行き場を無くして宙をさまよっている。


<奴さん、えって顔してるぞw>

<砂煙が消えるとは思ってなかっただろうなー>

拳圧けんあつで砂煙は普通消えないww>

<どんな拳圧してんだよ…>


「今日食べるかわかりませんが、マンティコアの肉は美味しいので丁寧に倒します!」

誤って毒袋を傷付けると全身に毒が行き渡って肉がダメになるだけじゃなく、ドロップ品まで呪い効果がついてしまうのでめちゃくちゃ値下がりするんだよね…。

それでもマンティコアが倒れてくれたら素材がダメになるだけで済むんだけど…

もし生きてたらめっちゃ厄介なんだよね。

というのも、毒でハイになって大暴れしだすし、全身毒が回ってるから攻撃を受けたらこっちが致命傷になりかねない。

それに飽き足らず翼を仰げば毒の風が吹き荒れたりと、遠近毒攻撃のオンパレードになって一気に攻略難易度が跳ね上がったりする。


手っ取り早く尻尾を切り落としてしまいたいが、グリフォンより走るのも飛ぶのも早くてすばしっこいから刃飛ばして切り落とすのは困難なんだよなー…。

<【2,000円】丁寧に倒す!>

<イミフww>

<「マンティコア倒したけど全身毒が回ってしまって大破産」って動画、MUKAKINやってたなー>

<あーあれか見た見たw>

<ソロでマンティコア狩れるのは流石SSランクだったよな!>


「MUKAKINさんもマンティコア狩ってたんですね!マンティコアの毒袋はサソリの尻尾と獅子の付け根ぐらいにあるんで気持ち獅子の胴体寄りに切り落とす必要があるんですよ!グリフォンみたいに境目で切り落とすと全身毒回るし即死しないので、全身毒が回って攻略難易度が跳ね上がるんで注意してくださいね!」


砂煙を吹き飛ばされて、唖然としていたマンティコアが気を取り直して串刺しせんと距離を詰めて毒針を放ってくる。

こっちからすると相手からわざわざ攻撃の間合いに入ってくれたので助かった。


「マンティコアの無毒化…うまくいくかわかりませんが…見ててくださいね!」

毒針を避けたあと、地面を踏みしめ力を貯めて解き放って、一気に距離を詰める。

氣の刃を飛ばさず腕に纏い思いっきり振りぬいてマンティコアの羽を一刀両断、マンティコアの機動力を削ぎ落す。

振りぬいた反動を利用し、もう片方の腕に氣の刃を纏わせ体制を戻す勢いを利用し気持ち多めに獅子の胴体寄りに尻尾を切り飛ばした。


マンティコアの本体を蹴り飛ばして距離を開けつつ、跳ね飛んだ尻尾を掴むと氣を目に集中させて毒袋の位置を捉えた。

マジックバックからサバイバルナイフを取りだすと毒袋を傷つけないよう周りを切り落とし、毒袋をマジックバックに格納した。


次に尻尾を毒針と食材の部分に切り分けようとしたところで――


尻尾を失ったマンティコアが苦し紛れの咆哮をあげて距離を詰めてくると前足を振り落としてくる。

…ただ尻尾と翼を失ったマンティコアは二回りぐらいデカいただの獅子だ。


「邪魔!」

前足を腕で弾き、噛みつこうと口を大きく開けた獅子の顎に全力のアッパーをブチかます。

アッパーをモロに受けた獅子は宙を舞い――


ズドンッ!!


自然落下で地面に叩きつけられた。


だらしなく口から垂れた舌、マンティコアはピクリとも動かなくなった。


「ふぅ…終わりました!」

<【500円】いやいや…マンティコア本体の雑扱いよ>

<一瞬の出来事すぎてやべぇよ…>

<【2,000円】ありのまま…今起こったことを話すぜ!尻尾が飛んで、本体が吹っ飛んだら、尻尾の解体が終わってた…>

<わけがわからないよ!>

<【1,000円】かずやん最強!かずやん最強!かずやん最強!>

<これが正しい攻略法です(キリッ!>

<絶対違うww>


グロフィルターをオンにして、マンティコアの肉と爪や牙などの素材に解体して、終わった部位はマジックバックにしまった。


「さて…解体も終わったので、これから深層配信を始めたいと思います!」


そう言い終えた俺は…深層フロアに続く階段を降り始めた。


―――――――――――

深層フロアは一体…


「★★★」や「ブクマ」いつもありがとうございます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る