第64話 カニパ(1)

定年を過ぎた大家さんが大家業を引退して老後を謳歌したい。

ずっと住み続けてくれるし、もし良ければと自宅兼、事務所の建物を所有することになった。

税制面上のことは亮にお任せだ。


色々考えると都心に家を持った方がいいのかもしれないが、なんだかんだブラック時代からの付き合いでこの家に愛着を持っていた。


というのも…家の後ろには広い庭、お隣さんとも距離が離れているのでBBQが自由にできる。

都会じゃ庭でBBQなんてやった日には苦情が入ってしまう。


「あっパイセン来たっすねー!とりあえず調理器具とか炭とか色々用意したっすよー!」

「おかえりなさい。高円寺さん」

「お邪魔してます!師匠!」

「和也さん、お邪魔しています」


ふと背後に気配が…

「和也様、今日の配信もお疲れさまでした」


「おー和也!って姫っちゃん!うぉーサインください!」

「ふぇ!?いいですよー!」

来て早々、姫っちゃんを見つけた亮のテンションが上がる。

あれ?お前…姫っちゃんのファンだったの?


それはさておき、家に帰ってきたら皆揃っていた。

結構田舎なので、ここまで来るの大変かと思ったが、わざわざこうして集まってくれるのはありがたい。


配信をしばらく続けてきて変化もあった。

国立さんが顔出しOKになったのだ。

配信に参加してもらうので、給料はその分上乗せさせてもらっている。

配信時は、はじめが付けた「くにやん」と呼ぶようになった。


ここにいるメンバー(神田さん含め)顔出しOKとのことなので、今日の配信は結構気軽にやれそうだ。


「さーて、配信はじめますよー!」

「「「「はい(っす)!」」」」

「おう!」



「皆さんー!こんばんはー!」

<こん!>

<こんばんはー!>

<ばんはー!>

<2部キタ――(゚∀゚)――!!>

<姫っちゃんだ!>

<【1,000円】姫降臨!>

<姫降臨!>

<姫っちゃんキタ――(゚∀゚)――!!>

<姫っちゃんキタ――(゚∀゚)――!!>

<はじめちゃんだー!>

<はじめちゃんちーっす!>

<くにやんもばんわー!>

<姫っちゃんとはじめちゃん正妻対決来るか!?>

<じつはくにやんもワンチャン…あるか!?>

<いやいやくにやんは、はじめちゃんてぇてぇ枠でしょ>

<なんだよそれw>

<【8,989円】それよりなにより…今日の配信なにー?>

<美人の人は誰ー?>

<確かにめっちゃ美人やん!?>

<かずやん…ハーレムか!?>

<【666円】絶許!!!!>


ちなみにパンプキンの皆さんにも声を掛けてはみたんだが、遠くに遠征しているので今回は不参加となった。

武蔵境さんは…そもそも連絡先を知らない。


「今日は火山フロアで取ってきた食材を使ってBBQをやっていきますよー!あとは…カニしゃぶですね!あと…今日は重大発表もあるのでお楽しみに―!ちなみにこちらの女性は専属サポーターの神田さんです」

意味深>

<神田さんキレイ!>

<結婚してください!!>

<重大発表!?>

<なに?結婚報告とか!?>

<隠し子がいるって噂本当だったんですか!>


ピクリっと女性陣の聞き耳がたつ。

「ははは…どっからそんな話が出てるんですか…。全く違いますよ。まあ料理後に発表しますね!」


視聴者の根も葉もない噂をサラッと流し…始めますか!


メルトシェルクラブは本来甲羅を使った調理をしたいなーって思ったんだが、火山フロアの甲羅は木炭を燃やしたぐらいでは熱が入ることはなかったのであきらめた。


ロッキーキャロットを花型にカットして、椎茸は十字に切り口を入れる。

ハックーサイ、春菊、エノキ、豆腐、後青ネギは一口大にカットしていく。

カニ鍋のベースは昆布つゆにしよう。

鍋に水と昆布を入れて、釣り鍋に掛ける。

沸騰する前に昆布を取り出したら鍋の下準備は完了だ。


ジャガイモとダンタマをスライスしてバターを溶かしたフライパンで軽く炒める。

小さい耐熱容器を人数分用意して、炒めた野菜を容器に並べる。

カニの甲羅が使えるのであればしっかり洗って使うといい。


再びフライパンにバターを入れて溶かし、その中にかにみそを加え混ぜていく。

カニの身と、酒、ホワイトソースを加えて混ぜながらアルコールを飛ばし、最後に塩と胡椒で味を整える。

野菜の上にカニクリームを流し込み、その上にとろけるチーズとパンを振りかける。


野菜を切った後に肉を切らないと雑菌が野菜に移るからな…。

マジックバックからサラマンダーの肉を取り出す。

改めてぶつ切りにしたらワニ肉っぽい見た目をしているな。

この肉を少し分厚めにスライスにしたものと、ぶつ切りに切り分ける。


下準備した耐熱容器と、ぶつ切りにしたカニの身、スライスしたサラマンダーを炭火のオーブングリルに入れてグリル焼きにしていく。


ぶつ切りにしたサラマンダーを市販品の唐揚げ粉に纏わせて、油の中に放り込んでいく。

カラッときつね色に揚がれば完成だ。


「さて、一通り料理ができたので、皆さん食べていきましょうか!」

「いつものことながら、惚れ惚れする手際ですね」

「くーっ!待ちきれないっす!」

「最初はこれから食べてほしいってあるのか?」


良い質問だ。

「最初は鍋かな!ここに用意したカニの足をしゃぶしゃぶにして食べてくれ。そしたらいい塩梅でカニの出汁が出るから、そこに野菜と追加のカニを入れて煮込んでカニ鍋を仕上げていこうと思っている」


「師匠…これ…すごく大きいです…」

姫っちゃんがカニの足を半分に割って殻を事前に剥いておいたポーションを一つ手に取る。

半分に割ってもかなりデカいから自然と口からこぼれ出たんだろうが…

<切り抜き入ります!>

<【666円】絶許!絶許!絶許!!!>

<ガタッ>

<僕のウララがた…>

<それ以上はいけない>

<チャットって遮れるの!?>



「はいはーい、皆さん切り抜きとか無粋なことしないよ!姫っちゃんも言い方!」

「編集時はカットっすねー」

「あっ…ごめんなさい師匠!」

<な、なんだってー!>

<この一言で取れ高爆上がりですよ!>


「配信止めるっすよ?」

<それは勘弁してください!>

<切り抜きしません…;;>


そういいつつ…切り抜く輩は一定数出てくるんだけどね…。


「ダメ…と言いましたからね」

三鷹さんニコッっとカメラに向かって話す。

目は…笑ってない。


後日談として、切り抜きは拡散されることはなかったという。

なんで!?


―――――――――――

敏腕マネージャー三鷹さん


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