第59話 下層配信~火山フロア~(1)

案件調整など仕事に奔走していたこともあり、ダンジョン配信が行えない日々が続いていた。

というのも、いちむらの監修案件の存在がやはり大きく、5度目の本社訪問の末、ようやく納得いく味が決まった。

そして…製品の発売日が決定したのは素直にうれしい。


頭を悩ませていた仕事が無事終えたことを皮切りに、色々調整していた仕事も解決していき…ようやく…ようやく配信の時間を確保することができそうだった。



そして配信日和の土曜日がやってきた。


実は今回も案件配信なんだが…今回の案件内容は少々変わっている。


「うーん…弊社商品の紹介は不要ですが、商品を配信に使っていただき耐久度を試してほしい…ね」

最近の配信ではステルス機能搭載のドローンカメラを使って配信を行っていた。

市販の中では最上級の性能のものを購入していたので、特にこの案件を受ける意味はないと思ったんだが…


-100度~500度まで耐えることができる配信用タフドローンカメラを開発したので実際ダンジョン配信で耐えられるか検証して欲しいとのことだった。


ちなみにだが、火山フロアはフロア全体が40~70度を超え、火山付近になると100度を軽々と超えてくる。


一般人は火山フロアに近づくことは出来ないが、ダンジョン探索者になってくると話が変わってくる。

火山向け装備が色々販売されていて身に着けるだけで体温コントロールができるようになっているし、氣のコントロールができれば装備がなくても探索が可能になるようだ。

まあ…タンクみたいなフルアーマーを纏った探索者は物理的に蒸せて早々に脱落してしまうらしいんだけどね…。

ということで探索者は問題ないんだけど、配信機材が機能しなくなるので、火山フロアを今まで配信した探索者は今までいなかった。


ちなみに今使っているカメラは-10度~50度と一般的なダンジョンでの使用は問題ないけど、火山や氷山では役に立たないどころか配信早々に壊れてしまうだろう。

もしこれが耐えられるのであれば、配信者業界に激震が走るかもしれない。


そう思ったら試さずにはいられなくて、案件を受けることにした。

壊れてしまえば、配信の出来高はオジャンだが、もし配信できたとしたら前代未聞で出来高は爆上がりだろう。

一種のギャンブルだが、案件で最低保証されていることもあって、こういう賭けも悪くない。

マジックバックがなかったときは、食材を持って帰るのが困難だったこともあって、下層火山フロアにはほとんど行ったことがなかった。


ということは…未知なる食材に出会える確率は高いかもしれない。

ゴクリッと喉が鳴る。

事前知識で色々調べて、念のため評価の高い火山用防護服を購入した。

下層に入るときに、服を着て氣で体温コントロールできるようであれば、この服を脱げばいい。

流石に火山フロアで料理配信はできないだろうから、マジックバックに防護服とビールを詰め込んでダンジョンに向かった。




「皆さん!こんにちはー!」

<こん>

<こんちゃー!>

<こんちゃーっす!>

<かずやんこんちゃー!>

<こんにちはー!>

<【8,989円】今日の配信なにー?>


いつも合いの手ありがとうございます!

「今日は案件配信になります!それもですね…今配信で使っているドローンカメラです。このカメラが下層の火山フロアでも使用して配信できるか耐久試験を行ってほしいとのことなので、火山フロアに行ってみたいと思います!」

<えっ?ドローンカメラの案件!?>

<めちゃくちゃ性能良いカメラってこと?>

<性能っていうか耐久性が高いんだろうなー>

<マジで火山フロアの配信すんの?>

<前代未聞じゃん!?>


「実はですね…火山フロアって食材調達に向いて無くてほとんど挑んだことがないんです。今回は踏破済みのダンジョンに挑みますが、もしかしらたあんまりいいところをお見せできないかもしれないのでその点ご了承ください」

<うーん…期待しかないんだよなー>

<【500円】がんばれー!>

<【5,000円】「姫っちゃん」今日オフなので師匠の活躍見させていただきます!>

<【1,000円】姫降臨!!>

<姫降臨!!>

<姫っちゃんキタ――(゚∀゚)――!!>

<姫っちゃんキタ――(゚∀゚)――!!>

<師匠を応援する弟子…熱いなー>

<【666円】絶許!>

<そういえば姫っちゃんも最近めっちゃ頑張ってるよね!>

<前、かずやんいなくてもミノタ瞬殺して、下層も少し攻略始めてたし>

<でも…姫っちゃんは無理はしないでね!>

<かずやんは無理する前提で草>

<無理しているシーン見たことないけど>


あーいつもの人も健在っぽいな。

「姫っちゃんありがとう!弟子に無様な姿は見せられないので頑張りますね!」

さて、気を取り直して上層攻略からだな!


息巻くも即上層を踏破して中層へ、最後にフロアボスのミノタをビンタ一発で倒した。


<危なげなさすぎ>

<今回はビンタでミノタ瞬殺かー…>

<毎度のことながらミノタが不憫だわ>

<【5,000円】「姫っちゃん」流石師匠です!私もやってみます!>

<姫っちゃんは人外にならないで;;>

<人の域を超えちゃダメだよ!>

うーん、いつもながら中々ひどい。



とはいえ、ここまでは通過点で、ここから下層攻略が始まる。

火山フロアを最後にチャレンジしたのは何時だったか…正直、暑さが全く思い出せない。

それもあって、安全第一ということで火山用防護服を普段着の上に羽織ったんだが…不安しかない。


不安だからと立ち止まっているわけにもいかないので、覚悟を決めて第一歩を踏み出した。


―――――――――――

火山フロア…


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