第43話 姫っちゃんコラボ~おかわり~(3)

「えっ、会社倒産したの?」

初耳だった。

「私、パイセンは自分を低く見積もりすぎっすって言ったっすよね?パイセンがこなす仕事量は異常だったんっすよ。まぁ…比較対象もいないし、パイセンが実感する機会はなかったっすけど…。」

「なるほど…自分のことは自分が一番わからないって言うしな…。」

シューッという音が聞こえてくる。

どうやらなべの中に、いい感じに圧力が掛かったようだ。

火を止めて、ここからじっくり圧力をかけていく。

<壮絶すぎるだろ…>

<かずやんって何時から探索者として活動してたんですか?>

<それ気になるかも!>

<参考にしたい!>


フランスパンをカットしてオーブントースターで温める。


「うーん…そうですね。探索者として活動したのは高校時代でしたね。周りのみんなが度胸試しで試すみたいな時期があったんですよね…」

「今じゃ考えられないっすね。ダンジョン探索は基礎体力の検査基準がEランク探索者の水準以上ない限りは探索許可が下りないっすからね…」

「とはいえ、骨を折ったりした生徒が続出したこともあって高校を卒業するころにはEランク探索者の基準が確立されていたかな。」

「それまでに骨を折る程度ですんだのは、不幸中の幸いですね…」

高校生がダンジョン探索をするのは今でもそこまでおかしなことではないが、俺の高校時代はライセンスがなくてもダンジョンに入ることができて、入口付近でモンスターと戦う度胸試しが行われていたのだ。

卒業するころには色々変わって、度胸試しという文化はなくなったんだが…。


フランスパンの表面に焼き色がついてきたので、皿に移したところで姫っちゃんが運びますよと来てくれたので皿を渡す。


「加圧が終わったようですね!」

加圧中のサインが消えたのを確認し蓋を開ける。

最後に照りとまろやかさを加えるためにはちみつを入れて。とろみがつくまで火を入れて水分を飛ばす。

あとは…フランスパンを一口大にカットして用意すれば完成だ。


「うん!いい感じだ。ロケットラビットの赤ワイン煮込み完成です!」

軽く味を見たがいい感じの仕上がりだ。

人数分の深皿を人数分用意して取り分けていく。

最後に手抜きかもしれないがカット野菜を盛り付けたサラダを準備して完成だ。



「さて、はじめー運ぶのを手伝ってくれるか?」

「いいっすよー」

テーブルに人数分の料理を運んでいく、国立さんも手伝おうとしてくれたが顔が映りそうになるので今回は止めておいた。

「私も手伝いますよ。」

三鷹さんと姫っちゃんも手伝ってくれたので、すぐに食べる準備が完了する。


三鷹さんは車ということなのでノンアルコール飲料を用意しつつ、後はみんなお酒は飲めそうなので赤ワインを人数分グラスに注いで――

「では、完成したので食べていきましょう!いただきます!」

「「「「いただきます!(っす!)」」」」


「ウサギ肉の独特の風味をと赤ワインとはちみつのコクが良い感じに調和してますね。タマネギの甘みも丁度いい感じです。」

三鷹さんはウサギ肉をナイフとフォークで器用に骨から肉を切り取り、ソースをからめて口に運んだあと感想をいう。

「ウサギ肉初めて食べたっすけど、圧力なべで加圧してるからかホロホロでおいしいっす。」

「スパイス焼きもおいしかったですが、これは先ほどと違って深い味わいですー。」

「……もぐもぐ(コクコク)」

皆、うんうん、おいしーと口ずさみながら赤ワイン煮込みを食べていく。


「このソースフランスパンに付けて食べてもおいしいっす!」

「だろ?これが結構おいしくてフランスパンは欠かせないんだよ」

<うわーめっちゃ旨そう>

<圧力なべ使うと30分ぐらいで作れるのか…>

<Yの急上昇ワードに赤ワイン煮込みが出てるw>

<まじだwみんなどんな影響されてるんだ>

<【500円】ワイン買ってきたー、かずやん作ってー!!>


「ははは、難しい調理工程はないので、皆さんも自分で作ってみましょうね!」

<ロケットラビットの肉を入手するのが一番難しいんだが…>

<Bランク、いやソロだとAランクは必要だろ…道のりが長い…>

<牛ブロックで代用できるかも?>

<赤ワイン煮込みだし。お肉はなんでもいけそうかも?>


「そうですねー。お肉はどのお肉でも大丈夫だと思います!豚のばら肉とかカレー用の牛肉とかでもおいしいと思いますよー。」

フランスパンの上にレタスとウサギ肉を載せた後、ソースを垂らし粉チーズを取り出し振りかけパクリ。


「あーっなんっすかその食べ方、おいしそうっす!ずるいっすよパイセン!」

「わ、私も試してみたいです!!」

「…うんうん!」

女性陣による粉チーズの取り合いが始まった。

人がおいしそうに食べる姿を見ると、無性に食べたくなるよね!


「女三人寄ればかしましいということわざ通りですね。」

三鷹さんが微笑みながら、3人の隙間を軽やかにすり抜け粉チーズを手にする。

事前に準備していたパンにササっと振りかけると流れる動作でサクッと食べる。

うーん、めっちゃ様になってる。


「三鷹さん…大人げないですよ!」

「そうっす!三鷹さんひどいっすよ!」

「うぅ…!」

「ははは。すみません。では皆さんにこれを」

事前に自分用以外に3人分用意していたようで、それらに粉チーズをふりかけると女性三人に渡した。

これができる男のしぐさなのか!!?


<【1,000円】三鷹さん…惚れる…男だけど>

<これはヤバい>

<ダンディーすぎ!>

<イケオジ!>

<私のマネージャーになって欲しい!>

<【2,000円】彼女はいるんですか!?>

これをきっかけにYの急上昇ワードに三鷹さんが登場し、人気がうなぎのぼりに伸びて写真集の発売、その後モデルのお仕事に繋がっていったのはまた別の話。


晩御飯を食べつつ視聴者の質問に答えていたが、今は晩御飯を食べ終えて満足そうな顔を浮かべている。

「さて…料理も食べ終わったので、本日の配信は終了したいと思います!」


<おつー>

<はじめちゃん仕事がんばってー!>

<次回の配信、楽しみにしてまーす!>

<姫っちゃんの配信も楽しみにしてますー!>

<三鷹さんは次何時登場するんですか!>

<8888>

<乙ー!>


たくさんのコメントが流れているのを見つつ、配信を終了した。

「ん?」

スマホを見ると通知が1件、神田さんからのようだ。


”配信お疲れ様です。神田です。

国から強制ミッションが発令されました。

内容の説明と実際にダンジョンに向かっていただきたく

明日、早くて申し訳ないですが朝6時に車でお迎えに上がってもよろしいでしょうか?”


強制ミッションか…ついにきてしまったな…。


"承知しました。

本日中じゃなくて大丈夫ですか?"


強制ミッションの温度感はわからないが、酔いはダンジョンの湧き水を飲めば吹っ飛ぶのでいつでも行ける。


"万全の状態で挑んでほしいのと、先にSS級探索者が事に当たっているので今日はゆっくり休んでください。"


"わかりました。では明日よろしくお願いします。"


スマホをポケットに突っ込むと高尾がこちらを見ている。

「なんっすかーパイセン。女っすか?まさか女っすか!?」

高尾の甲高い声に、姫っちゃんがピクリと動く。

「女は女でも、ギルドの神田さんからだ。国から強制ミッションが発令されたから明日迎えに来るんだって。」

「へぇーなんかすごそうっすねー。パイセンがんばっすー。」

なぜか興味をなくした高尾は棒読みでそう返すと事務所に戻っていく。

いや聞いてきたんだからもう少しあるだろー!


―――――――――――

後半3000文字超えちゃいました。過去一長いとは…


次回はSS級最初のお仕事編開始です!

そういや…SS級といえば何かあったような…?


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