第38話 姫っちゃんコラボ(5)…

「氣を武器に流すことで武器の耐久力と攻撃力って向上するよね?」

「はい、それは探索者としての基礎知識ですよね?」


「うんうん。氣を身体に巡らせると感覚が研ぎ澄まされる。これも基礎知識だ。では武器に氣を込めたあと、その氣を肩まで引き伸ばす…うーんあれだ肩まで武器とみなして氣を込めれば、耐久力とか攻撃力とは違うんだけど意思伝達の速度が上がるんだよね。普通、目で見た後に手が動くまでって脳を経由して命令するからラグがあるんだ。でも肩まで氣を引き延ばすと脳から肩を経由して手ではなく肩まで短縮できるから速度が速くなるんだよ。今回それを実践で覚えようか。」

「へっ?は、はい!」

ぽかーんとした表情を浮かべる姫っちゃん。

こいつ何言ってるんだって顔をしているなー。

わかる、わかるよ。

頑張って言語化しようとしたけど、言ってる自分もうまく伝えられる自信はないもの…。


<肩まで氣を込めるって…>

<そんな発想はないねー>

<そもそも一瞬のラグに困るケースってそんなにないしな…>

<んーでも頭で思ったことと手を動かすラグがなくなるって、攻撃速度が上がるってことだよね?>

<手数がモノを言う戦闘だとアドバンテージあるのか…そんなケース思いつかないが…>

<かずやんが肩までって言ってるってことは…かずやんは全身でそれができたりして…>

<それって…まじの化け物――>


勘のいい子は…とそれはさておき、実際、中層レベルだと効果は薄い。

でもこれが常時できるようになっておかないと下層のモンスター相手に苦戦するし、深層で出てくるマッハラビット攻略はマジで困難なんだよな…。

あいつらライフル並みの速度で突っ込んでくるし。


存在確認した瞬間、目の前にいるから気付いてから手を動かしてたら間に合わないんだよね…。


「とりあえず…実践あるのみ!」

「よ、よろしくおねがいします!!」

攻撃が最悪間に合わなかった場合に備えて、カバーできるように立ち位置を調整しておく。


「あそこにいたね!とりあえずやってみようか!」

「はい!」

こちらの声に少し離れた位置にいたロケットラビットが気付き、一斉にこちらに向かって飛んでくる。


その数5匹――


姫っちゃんが今の状態で5匹を相手するには経験値不足…、そう判断した俺は飛んできた4匹は即座に俺が打ち落としたが…。

姫っちゃんの反応が若干遅れた!


打ち落とさなかった最後の一匹の横っ腹に掌底を叩き込みロケットラビットの軌道を変えた。

思わぬ一撃にロケットラビットの勢いが減速、そこに振りぬいた姫っちゃんの短剣がスパッと入る。


ギャアアアアーーー!!!

野太い声が響き渡るも、それは一瞬のことで半分に切れたうさぎが地面に落ちる音が響き渡る。


「ちょっと反応が遅かったね。でもあと少し練習すれば多分いけるはずだよ」

「は、はい。師匠!私頑張ります!」

ロケットラビットの可食部は少ないので最低でもあと数匹は確保しないと満足な食事はできない。



その後、何度か試しては失敗を繰り返しながら運よく3体のロケットラビットを確保した。

だがこれだと、姫っちゃんの成長を促せたと胸を張っていえないだろう。



「はぁ…はぁ…」

とはいえ、普段と全く慣れない氣の使い方に体力も気力も想像以上に消費していることだろう。

肩で息をする姫っちゃん、この様子だとあと一回が限界かもしれない。


「姫っちゃん…次が泣いても笑ってもラストチャンスだ。」

「はぁ…はい!師匠!」

パンッと自分の頬を叩き気合を入れる姫っちゃん。

あと少し…あと少しで行けるはずだ。


10匹の群れをなしていたロケットラビットがこちらに気付き飛んでくる。

邪魔な9匹を瞬時に打ち落とした俺は、最後の一匹を姫っちゃんに任せることにした。



~姫っちゃんSide~


「いまだ!」

師匠の声がダンジョン内に響き渡る。

短剣に込めた氣を肩まで伸ばし、視界の端にロケットラビットを捉える。

勝負は一瞬だ。

思うより先に身体が動く。


短剣が自分の思考とラグなく動く――


『姫っちゃんって短剣振るときの動作に若干の無駄があるよね?短剣ってまっすぐに振りぬいた方が勢いが乗りそうだけど、すこしスイング気味になってて、せっかくの勢いがノリきれていないように感じるんだよね。』

世界がゆっくり時を刻む中、ふと師匠の声が脳内で再生された。


今の自分の短剣の動きは――



~かずやんSide~


体に染みついたクセはそう簡単に抜けるものではない。

意識して何度も練習をしたとしても、大事な場面では何千、何万と振りぬいてきた自分の一番が無意識に出てしまう。


思考と身体のラグはなかった。


そう…


これは単純に実力不足だ。


ナイフを振りぬいた姿勢の姫っちゃんの身体を押して、ロケットラビットの軌道から外し、マジックバックからサバイバルナイフを取り出しざまに一閃の斬撃を放った。


<……>

<…>

<・・・>

<……>

<…>

<…………>

<・・・・・・>

<……>


二つに裂けたロケットラビットが地面に落ちる。

全員が沈黙する。



遅れて尻もちをつく姫っちゃん。

何が起こったかわからないという表情を浮かべた後、次第に状況を理解し――


「わ、わたし…しっぱい…した……で……ね………」


自身の状況を声にしようとするが、声が震えて最後は声にならず、無意識のうちに頬を伝った涙が地面を濡らす。


「あ゙ぁあ゙あ゙あ゙ぁー!!」

振り上げたこぶし、地面を叩く音が木霊する。

涙がこみ上げて止まらない。


「姫っちゃん…」

「じ、じじょ……うぐっ…わたじ……さいご……」

声にならず、自分のズボンを握りしめる。


「今回は実力が足りなかった。でも最後の一撃はとても良かった。今回の失敗は必ず次に活かせるはずだ。違うかい?」

姫っちゃんの頭にポンッと手を置く。


「ぢ…違わないです…もっと練習して…二度とこんなミスはしないです。」

涙を服の袖でぬぐい、唇を噛みしめ赤くなった瞳でこちらを見つめ返してくる。

強い意志のこもった瞳だ、もう大丈夫。

「その意気だ。」


<姫っちゃーん!!!>

<最後すごかったよー!!!>

<モニターが涙でみえない…>

<悔しいよ…>

<姫っちゃんなら絶対できる!>

<俺らはずっと応援するぞ!!!>


「ありがとうございます!!!これからもよろしくおねがいします!!」

目を腫らしながらも太陽のような笑みを視聴者に向けた姫っちゃん。

うんうん、すごくいい感じだ。



<【5,000円】姫っちゃんはすごい!いやもう感動した…んだが、かずやん…何か言うことあるよな?>


このままいい流れで終われると思ったが…まあそうなるよねー


―――――――――――

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