第13話 ブラック企業によろしく ~前編~

土日休みを確保すべく、平日は全力で仕事をこなす日々を過ごし

朝と夜、ダンベル持ちながらの帰宅ダッシュは雨だろうと続けている。


「はっはっは、やればできるじゃないかかずき君。これならもっと仕事を振れそうだねー」

バーコード頭にブルドッグのようなほほ、腹にはたっぷりのぜい肉を付けた。

社長のモブ山モブ男がいやらしい笑みを浮かべて、ノッシノッシと俺の席に近づいてくる。

俺の名前はかずやな。

「お言葉ですが、これ以上タスクを積まれても消化しきれません。また休日も業務を詰め込むと社員の士気に関わるので、仕事量の調整をお願いできませんか?」

「はっ、なんだそれは、みんなの士気を高めるためにみなし残業を払っているんだ。その分働くのが筋ってものじゃないのか?わが社はな…人月分働いてなんぼの会社なんだよ!」

「であれば、最低時給よりすくないみなし残業の時間単価を引き上げてください。200時間5万で士気は上がりません!」

「あぁ?お前の給料を払うために、どれだけわが社が苦労していると思っているんだ。わが社の技術力はな他社と比べて高くない、いやむしろ業界の中では低いんだよ!そうなったらわが社のメリットはなんだと思う?そう労働力、ようは労働時間なんだよ。200時間5万が少ない?サービス残業でないだけ感謝しろ!もしくはそうだな。BWSとかBzureとかモダンな開発の案件をお前はこなせるのか?あぁ?」

俺の顔に唾を飛ばしながら顔を真っ赤にしたブルドッグが矢継ぎ早に話す。

スキル向上のための時間もなく、似たようなスキルセットとポジションの案件にジョインさせ続け知識を固定化。残業前提のスケジュールで案件を他社より安請負して負担はすべて従業員に押し付ける。

同じことを繰り返すうちに自信を失った社員は辞めたくても、次のステップを踏むのが怖くなって身体を壊すまで働くしかないようになってしまうのだ。


「こんなやり方を続けていると、他の従業員も辞めてしまいます!矢場杉やばいとか辛井つらいとかここ数日会社に来てないですが身体を壊したからでしょう!」

「ふんっ、軟弱なのがいかんのだ。私が若かった頃はこんなもんじゃなかったぞ。2徹3徹は当たり前、しかもサービス残業だ。まぁ減った従業員はまた増やせばいい。ヘローワークに求人を出しておいてやるから、お前は目の前の仕事をやってればいいんだ。」

「待ってください!まだ話は終わってないです!仕事量を減らしてください!」

ふんっと鼻息を荒くし、立ち去ろうとした社長を俺は食い下がる。

「うるさいっ!黙って仕事しろ!仕事できないなら辞めてしまえ!お前の変わりなぞいくらでもいるんだからな!」

「あぁ…わかったよ!こんな会社辞めてやる!」

売り言葉に買い言葉、最近血の気が多くなってきていたこともあって、カッとしてつい言ってしまった。

「言質を取ったぞ…自己都合による退職だ!泣きついたからって知らんからな。あー後はおいっ、お前こいつの仕事はお前がやれ!」「え、えぇ…お、俺ですか?」

「お前以外誰がいる!お前も辞めるか?あぁ?」

「…」

ノッシノッシ鼻息荒く社長は去っていった。


―――――――――――

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