第2話 ダンジョンと配信者
ダンジョン内をふらふら、階段を何度も下ったところで、アルコール過剰摂取によるリバース
近くの湧き水を口にすることでようやく意識が戻ってきた。
ダンジョンの上層、中層でとれる湧き水は自然の力でろ過されており煮沸消毒せずに飲むことができて、飲むと様々な疲労を癒す効果がある。
この癒し効果は階層が深ければ深いほど効果も高いので探索者は、まず水源を見つけろと言われていたりする。
中層ぐらいまでくればアルコールのひどい酔いも治る湧き水が手に入るのだからダンジョンは未知だ。
疲労を癒す効果に目を付けた企業は湧き水をボトリングして販売するようになったが、深い階層の湧き水はその空気や水に慣れていない者が飲むと体に毒で、癒すよりも副作用が出てくることがわかってから、一般人向けに販売可能な湧き水は1階層のものまでとされている。
…っと、話が逸れそうだ。
「ここは…どこだ?」
湧き水効果で意識がはっきりしてくると、ここが家に向かう帰路でないことははっきりする。
「あー…ダンジョンか」
俺こと
くたびれたスーツとビジネスシューズ、ストロングチューハイ3本、からあげ棒の棒に乾き物が入ったコンビニ袋をぶら下げ今の状況を鑑みる。
辺りを見渡すと、緑と白の鉱石から光が漏れる岩のトンネルが長々と続いていることから、俺は今はダンジョンの中層にいるようだ。
ダンジョンは上層、中層、下層、深層と4層に分かれていて下層と深層は存在するダンジョンと存在しないダンジョンがある。
上層は白色の鉱石の光が、中層になると白と緑の光、下層以降はダンジョンによって異なる世界が広がっている。
深層以降はよほどのことがなければ情報は出回らず、出回ったとしても高額で売買されていて一般人は見ることがない。
酒を飲んで気が付いたら中層にいた…
酒は飲んでも飲まれるなとはこのことだ。
少し後悔するもののこれからどうするか……
家の帰り道にあるダンジョンは一つしかなく深さも中層までしかないし、中層のフロアボスはそこまで強くない。
このまま引き返して地上に戻るのもよいが、フロアボスを倒すと原理はわからんがリポップするまで地上に戻るポータルが発生する。
時間的にはフロアボスを倒した方が早く帰宅できるだろう。
中層の湧き水効果で疲れもほぼ取れたことだし、デスクワークでなまった身体に喝をいれるには丁度良いかもしれない。
そう思いダンジョン攻略に梶切りしようとした瞬間――
「た…たすけて!!だれか…誰か助けて!」
女性の叫び声が聞こえてきた瞬間、その声のする方に向かって走り出していた。
探索者としての実力も本物で、わずか1年でBランク探索者に上り詰めた。
驕ることなく安全マージンを確保したソロ配信、視聴者との掛け合いも人気があり登録者数は今も増え続けている。
そんな彼女の目の前にいるのは全身緑の大男、顔は一つ目でのこぎりのようなギザギザの歯がダンジョンの光に照らされ鈍い光を放っている。
Dランクモンスター…サイクロプス
見た目の気持ち悪さはあるが、サイクロプスといえば木の棍棒を振り回すぐらいしか能がなく、スピードも遅いのでラッキーパンチにさえ気を付ければ対処は容易とされていた。
しかし目の前のサイクロプスは木の棍棒ではなく、鈍く光る大きい金槌が特徴のウォーハンマーが握られていた。
また手数も普通のサイクロプスより早く一撃一撃が非常に重い。
無尽蔵の体力を有していることもあって反撃に出ることが許されず防戦一方となってしまっていた。
イレギュラー
普段と異なる動きをするモンスターは、一般的には2ランク上の強さがあるとされており、サイクロプスはDランクなのでイレギュラーはBランク相当となる。
モンスターのランクは2人以上のPTで攻略することを想定しており、Bランク探索者がソロで倒せるのはCランクモンスターがギリギリと一般的には言われている。
姫路とモンスターは同じBランクだが扱い的には相手のほうが格上になる。
しかも姫路の武器は短剣だったこともあり、相手の武器と相性が非常に悪かった。
普段と異なる素早い動きに間合いに入ることが許されず、重い一撃のハンマーを短剣で受け流そうとするだけで手はしびれ、2、3度繰り返すと短剣の耐久度が持たず刃が折れてしまう。
そして…最後の一つも今しがた破壊されてしまった。
一縷の望みを託し、助けを求め叫びながら逃げていたが…
ダンジョンの悪夢行き止まり、もう退路はもう…ない。
彼女は行き止まりの石壁を背にし、サイクロプスに手も足も出ず追い詰められていた。
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