新作掌編「撮影者だって選り好みする。」


「――この人っ、私たちのパンツを盗撮してました!!」

「え……、してないですよ」


「盗撮犯は全員そう言うんですよ!!」

「冤罪をかける人はみんなそう言いますけどね……」


 車内。

 スマホで調べものをしていただけなのに……、普段から滅多に使わないカメラのレンズを見られただけで疑われるなら、スマホのカメラ機能なんていらないんだけどなあ……。

 本体が安くなるなら全然ありだな、うん。


 それにしても、まさか座っている女子高生二人から難癖をつけられるとは……。

 確かにスカートは短いし、少し角度を変えれば見えてしまいそうな際どい格好だけど――。


「どうかされましたか?」

 と、正義感が強そうな男性が助け船を出してくれる……僕にではなく、女子高生の方に。

 まあ、そうだよねえ――。


「この人っ、盗撮してたんですよ!!」


「あの、だからしていないって言ってるじゃないですか。そもそもパンツを盗撮? パンツだけ盗撮しても意味ない気がしますけどね……、全体図を撮らないと……パンツだけって、通販の商品ページじゃないんだから」


「うるさい盗撮犯!!」

「えぇ……」


 面倒なのに捕まったな……、急いでいるわけではないけれど、周りからひそひそと噂され、嫌悪の目が向いているのは喜ばしいことではない……、社会的な信用を失っていくのを良しとする性格ではないからね――僕だって言う時は言うのだ。


 冴えない見た目をしていても。


 吐くべき毒は、ちゃんと持っている。


「……撮らないですよ。少なくとも、お二人ことは撮りません」

「……なにが言いたいの」


「こういうこと、あまり言いたくはないんですけどね……でも、疑われているなら仕方ないです……。撮影していない理由をちゃんと言わないと納得できないなら言いますけど――ブスは撮りません。いえ、さすがにこれは言い方が悪いですね……えっと……なんて言えば……うーん……、あっ! これだけ視界の中に、興味を引くものがたくさんある中で、角度的にかなり無理をしないと撮影できない、しかも大した価値もないお二人の『それ』を、どうして望んで撮影するんですか? メリットがないんです……、仮にあったとしてもデメリットの方が大き過ぎますから――わざわざそれを撮影したりしませんよ。それを撮るなら外の景色を撮影しますね」


「ッ、あーもーうるさいわねっ、言い訳をするなよ盗撮犯が!!」


「え……言い訳? 話が噛み合っていないような……、まるでカレーを出してラーメンはいらないって言われたような気分で――」


「なにそれ流行ってんの!? この前も同じことを別の男に言われたんだけど!!」


「いつ?」

「え?」


「こうして冤罪をかける時に言い逃れされたの?」

「…………」


「冤罪かけるの、常習なのかな?」

「…………うっさい」


「――さて、言い訳を聞こうかな」

「……言い訳なんか、言わないわよ」


「へえ」


「……言い訳って、あらためて考えて言おうとすると……なにを言えばいいの?」




 …了

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