新作掌編「カレーを出してラーメンはいらないと言われたら。」


「ねえ、言い訳するなよ」

「……え?」


「だから、言い訳をするなって言ってんの!」

「ど、どういう……? なんだか会話が噛み合っていないような……? まるでこっちがカレーを出したのに、ラーメンはいらないから、と言われた気分ですけど……今なにが起こっているんですか?」


「はぁ!?」


「ですから、カレーを出したのにラーメンを出すなよと言われた気分で――あっ、なるほど! 私が出したカレーを、あなたはラーメンだと思っているんですね! それなら話が通じましたよ……、認識が違うなら当然、会話なんて噛み合わないですよね――。

 言い訳をするな、って言いましたけど、それって言い訳をしている人にしか通じないんですよ。言い訳をしていない人からすれば、『?』と首を傾げるしかありませんから――。良かった、おかしなところが見つかって。でも、どうしましょう……、言い訳をするな、と言われても、こっちは言い訳をしていないので、現状維持しかできませんけど……どうします?」


「そうやって屁理屈をさあ……」


「そうやって? 屁理屈? ……え?」


 会話が噛み合わない。

 まるで数ターン、意識が飛んでいたみたいに……。

 話を聞き逃してしまったのだろうか?


「屁理屈を言うな、ってことですか? いいですけど……現状維持になりますよ? それは屁理屈を言った人に言ってあげてください。屁理屈を言っていない人に言っても……、現場はなにも動きませんよ?」


「――っっ、もういいです!!」


「そちらが満足したなら……いいですけど。言い訳、屁理屈……ケースバイケースで変わるものをあまり言わない方がいいですよ……、定義も曖昧ですし。

 人から言われて初めて自覚することですから……。こっちが自覚している前提で出すのは賢くはないですね……言い訳を、屁理屈を自覚して発言している人って……きっと少ないんじゃないですかね?」



 …了

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