※この記事にコメントは『もう』ありません。


「うーん……、どの記事にもコメントがつかないなあ……。これじゃあどの世代がどういう記事に興味があるのか分からないな……」


 パソコンの前で無駄にマウスを動かしていると、「せーんぱいっ」と、後ろから覆い被さってきたのは後輩だ。

 彼女は先ほど頼んでおいたコーヒーを自販機で買ってきてくれたようだ。


「人の記事ばっかり見てどーしたんすか。早く自分の記事を書いてくださいよ――最近は炎上することもないんですから好き勝手に書けるでしょう?」


「え、炎上しなくなったの?」


 はぁ? と、言われはしなかったが、そんな顔だった。……腹立つ顔である。

 その開いた口を片手でぎゅっと掴んでやりたいぜ……っ!


「せんぱいって、話を聞いてないですよね……」

「自分の世界に入ってるからな」


「社会人としてはダメですけどね……というか、自分の世界に入って集中しているなら、早く一文字でもいいから書いてくださいよ。キーボードを打てば文字が出るでしょう?」


「書き出しが重要なんだ――っておい!? 勝手に押すなっ、『あ』ばっかり連打したって原稿が進むわけじゃねえんだからな!?」


「押したまま熟睡すればいいのに……」

「それで文字が溜まっても、一括消去するだけだっての……」


 そんなことより。


「……炎上しなくなったって……どういうことだ?」


「さっきから先輩、『あれ? おかしいな』って、記事を見ながら思っていたんですよね? つまりそういうことですよ――ほら、記事にコメントがついていないでしょう? いつまで待ってもコメントはつきませんよ。

 誹謗中傷は当然として、批判コメントの刑罰も重くなりましたから……。結構、判断基準がケースバイケースなんですよね……だから被害者が訴えてしまえばコメントの内容どうあれ、書いた側が罰せられる『可能性』が高くなったんです。……そんなハイリスクを負ってまでコメントをしようと思う人もそりゃ減りますよね……」


「――ああ、だからどの記事にもコメントがついていないのか……」


 訴えられる可能性があるから書かない……、いやまあ、だったら訴えられるかもしれないような過激なコメントを残さなければいいだけの話にも思えるが、過激かどうかは問題ではなく、訴えた側の心の傷が判断材料になるのだろう……。

 こっちにその気がなくとも、実際に傷ついている側が声を上げれば認められてしまう……、確かに、危険だ。


 そんなリスクを負ってまでコメントを残したところで、リターンがない……。


 まあ、書いた側はすかっとするかもしれないが……そのためにリスクを負えるかどうか。


 大多数が、じゃあ書かない、となるだろう。


「……コメントがつかなくなって、批判コメントがなくなれば炎上もしなくなった……か」


「はい。なのでせんぱいでも好き勝手に書いてもいいんです……誰も文句を言いませんよ……誰も見ていないかもしれませんけど」


「それは嫌だな……だったら批判してくれって思うよ」


 この際だ、炎上してもいい――


 埋もれて忘れられるよりは、マシだ……。


「無反応が一番、傷つくんだよ……」


 見向きもしてくれないよりは……、だったらもう、攻撃してくれ。



「せんぱい……ドМ?」



 …了

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