昼過ぎの眠気は投げ込まれた睡眠玉のせい?
午後の授業はどうしてこうも眠たいのだろう……、顔を洗っても洗っても、眠気がまったく取れない。ちょっとでも気を抜けば、そのまま深い眠りについてしまいそうだった。
授業も悪い。ただ話を聞いているだけの授業は退屈でもあるし、抑揚のないリズムはさらにぐっと意識を深くまで引っ張ってくる。必死になって指を地面に埋めて、落ちないように踏ん張っているのに、先生の低く優しい声が睡魔の引力を強化してしまっているのだ――そう、睡魔。
睡魔……、悪魔の一種なのでは?
「ふぁわ……」
まずい、やばい……必死にまぶたを指で持ち上げて眠気に堪えていたけれど、それも通用しなくなってきた……。まぶたが重いどころではなく、もう閉じている。開かない。指で引っ張っても――引っ張る以前に手が上がらない。指がまぶたまで到達しない……。
気づけば頬が机にくっついている……冷たいのが気持ち良くて……あ、ダメだ、落ちる――。
ずる、という、指が外れた音が響いた。
どれだけ腕をかいても、指は地面にも壁にも触れず、睡魔に引かれた僕の意識は、深い深い真っ暗な穴の中へ落ちていった。
「――ふあっ」
ふと意識が戻って目を開けると、周囲が静かだった……。
隣の席の生徒も、前の席も、後ろの席も――先生も、眠っている。
午後の授業の睡魔に、全員が堪えられなかったみたいだ。
……みんなも寝ているなら、無理にここで起きる必要はない……気持ちの良い二度寝を……しようと思えば、見えてしまったのだ……――ガスマスクを被る、怪しい男が。
「――え」
そいつは振り向き、目を覚ました僕に気づいた。彼は手元にある黒いそれを僕に向けて……え、まさか、拳銃……?
どうしてそんなものを……? というか、こいつは誰で――?
「先に目覚めたか。運がないな、ガキ」
「……アンタ、は……?」
「教えると思うか? まあ、強盗だと思っていればいい」
強盗? 教室にいる全員を眠らせて、その隙にお金を(お金に限らず、欲しいのはスマホかもしれない……、狙いは中身の情報だったりして)――奪うつもりか。
……眠らせた? 午後になってやってきた抗えない眠気は、じゃあ、この強盗の仕業だった……? 睡眠玉でも教室に投げ込んだのだろうか?
多数を一斉に眠らせるなら、それくらいしか方法がない……。
見えない煙を吸い込んで、気づかない内に眠気に支配されていて……そして、先生も含めて全員が眠ったところで、強盗に入る……そういう作戦なら、まんまとはまったことになる。
もしかしたら他の教室も、職員室も、同じやり方で眠らせたのだろうか……だから静かなのだろう……。教室だけじゃなく、学校全体が。
「恐怖で声も出ないか。そのまま眠ってろ……、邪魔しなければなにもし――」
と、強盗の言葉が途切れた。
ぼと、と落としたのは、拳銃だ――。
強盗は膝を落とし、床に倒れる……、え、え!?
まず第三者の介入を疑ったが、そういう気配はまったくない。……もしかして、寝てる……?
ガスマスクをしていても、機能は完全じゃなくて……脇の甘さゆえに隙間から入った睡眠効果を持つ煙を吸い込んで、眠って、いる……?
「…………」
えーと、これは一件落着、で、いいのかな……?
とりあえず拳銃を回収し、警察に通報した方がいいと思うけど……あ、ダメだ、せっかく起きたのに、また煙を吸い込んだせいで、眠気が……睡魔が、やってくる。
意識が落ちる。
二度寝は一度目よりも、気持ち良いのだ。
…了
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