スタッフロール
全国をお騒がせした有名なタレントが、今時ファックスにて謝罪文書を送ってきた。
各メディアに向けたものだ。
その文書には、彼のメッセージが記載されている――その一部を抜粋すると、
『「関係者各位」や「全国の皆様」とひとまとめにしてしまうのは誠意が足りないのではないか? と思いました。なのできちんと、全ての関係者を順番に記載していきます――』
被害に遭った各メディアの関係者、総数を言ってしまえば、数百では足りないだろう。そして、今回の騒動で不安にさせてしまった全国の皆様の氏名も同じく、スタッフロールのように並んでいる……、どうやって個人が調べたのか、○○都(もしくは道、府、県)○○市(もしくは区)――の、○○(地域名)にお住まいの国民の名前が続いている……ひたすら、ファックスが悲鳴のように音を出しながら、謝罪文書を吐き出していた。
長文を抱きしめ、紙がどんどんと床に重なっていく……これ全て、一枚で繋がっている。
「……いつまで続くんだ、これ……」
「昨日からずっと続いていますよねー、ファックスって、ここまで紙があったんですね」
「まあ、それは問題ないだろうが……、いや、どうだろうな……。長さによっては紙が切れるかもしれん」
そうなった時、彼の謝罪文書は途中で途切れてしまうだろう……、補充して続きから吐き出してくれればいいが、まさかまたやり直し、ということにはならないか?
そうなったら絶望である……使い慣れていないファックスである……不安ばかりだ。
メールでいいのに……、それはそれで誠意が足りないと批判が出るのか?
「会見を開けばいいのに……いや、これを読み上げるなら同じことか? 全員の名前をきちんと記載することが誠意になるとは思えないがな……」
「これに誠意がある、と考えているのではなく、まとめてしまうことに誠意がないと考えているのでは? 誠意がないことを回避するためであって、誠意があることにこだわっているわけではないのかもしれませんね」
「……、面倒な奴だな……」
「周りが文句をつけるからこうなったのでは? 誠意がない、なんて誰かが言わなければ、こんな茶番に付き合うこともなかった――のかもしれませんね」
批判を恐れ、回避するために、いらない手順を踏むことになる……そしてそれに付き合わされるのは、批判をした側である……自分の首を自分で締めているようなものだった。
当然だが、社会の生きにくさは、生きている人間が作り出したものである……。
自分たちの手で不便を強いて、その不便に文句を言いながら、未だ解決がされていない……救いのないマッチポンプであるとも言えた。
「……ファックス、まだ終わらないのか?」
「はい。まだ続きそうですね……今でも既に、トイレットペーパーくらいありますよ……ぐるぐる巻きにしてみれば、こんな感じで――巻物なんかの比じゃありません」
「おいおい……まさかこれで、水に流してくださいってことじゃねえだろうな?」
さすがに水には流せない。
紙の量で詰まるから、ではなく――。
どちらかと言えば、つまらない話だ。
…了
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