掌編「悪口がない世界」


「――だったら、幸せかな?」


「……いや。悪口という分かりやすい他者からの攻撃がなくなるだけで、仮にこれが褒め言葉だったとしても、『それが本来の意味で褒めている』のか、それとも『悪口を封じられたから仕方なく、嫌味として言っている』ものなのか、分からなくなる……。

 そういう時、人は疑ってしまう……、自分で勝手に相手の誉め言葉を悪口と捉えてしまう……。だから悪口のない世界は、自傷行為に終始する世界になるんじゃないか? それが幸せかどうかは分からないけど……、他人から攻撃される人生よりはマシかもな」


 悪口がない世界は、あり得る……ただ。


 傷つかない世界は、あり得ない。



 …了

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