第23話:いじわる、されちゃいました。
「しーっ……白魔導師さんに気づかれちゃうよ?」
「 !?」
言われて顔を上げれば、ウォーキンデックスさんは無邪気な顔をして《薬瓶鞄》から取り出した瓶をためつすがめつしている。もし僕が陰茎を立ち上げているのがバレたら軽蔑されるかもしれない! せっかく仲良くなれたのにそれは困る! 僕は慌てて口を噤んだ。
それを見てニヤリ、とクローゼさんが笑みを深くする。
「ねえゼジっち、なんならこのままイかせてあげよっか……? ただし、これから言う条件が飲めたらだけど……」
な、なんですと!? と僕は目をむく。
「今回の、《擬似・火草エキス》を元手にしてさ、私たち三人共同ってことで新しくお仕事しない? 儲けは三人平等にわけるってことでさ。そうしてくれたら、悪いようにはしないよ……?」
悪い顔して囁きながら、クローゼさんはぐりっ、ぐりっ、と薬瓶の底で僕の陰茎をこね回す。
だが僕はかろうじて残った頭の冷静な部分で考えた。そもそも今回の《擬似・火草エキス》の販売まででは、クローゼさんは利益を得ていない。僕らがクローゼさんに売った分を、クローゼさんはさらにやんごとなき身分のお嬢様方に売ることで金銭に変えているのである。
クローゼさんはその部分を単純化して直接、《擬似・火草エキス》の売買に噛もうとしている、ということだ。僕を誘惑することで……!
くっ、な、なんてことをするんだこの人……!
あれ? でも、待てよ。僕らから仕入れた《擬似・火草エキス》に、クローゼさんは利益分を上乗せして再販売しているはず。ならば稼ぎはクローゼさんの方が良いことになる。だとしたら僕たちとしては利益も増えるしこうして気持ち良くもしてもらえて、案外良い条件、なのか……?
いけない、頭が痺れるような心地がして、うまく考えが……
「ほら、ゼジっち、男らしく決めちゃいなよ……それともこうやってされてるのが癖にでもなっちゃった? うふふ……でも首を縦に振らないと、最後まではしてあげないよ……」
そう言ってパッと、クローゼさんは手を止めてしまう。ああ……と思わず残念な気持ちが湧いた。もう少し……もう少しだったのに……!
「ほら、どうしたい……? ゼジっち、どうしてほしい……?」
「う、ううう――!」
ダメだ! と僕は歯を食い縛る。
こんなこと言われたら僕!
もう、首を縦に振っちゃいそう!
そして。
「んん? クローゼさん、さっきからどうして同じ瓶ばっかり触ってるんです?」
「え」
「へ?」
そう言ってウォーキンデックスさんが、クローゼさんが持つ瓶をどけてしまった。
「……? 鞄の底に何かある――?」
「あっ、ウォーキンデックスさ――」
「や、白魔導師さん、それは瓶じゃなくてだな……!」
しかし僕らが静止しようとしたのも束の間。
ふにゅ、と。
ウォーキンデックスさんの手が、ソレに触れた。
その瞬間!
「あっ!」
「「あっ?」」
「あっ、あっ……あー……」
「「?」」
僕の反応が想定外だったのか、ふたりが一瞬沈黙する。そして、何か事情を察したらしいクローゼさんが、薄く笑った。
「え? ゼジっち、まさか――?」
「ん? どういうことですか? なにがあったんれすか?」
首を傾げる二人をよそに、僕はよろよろと立ち上がる。
「……あ、あの……すみません。お手洗いに……行ってきます……」
ふぅ、とクローゼさんは両手を天に向けて、ため息をついた。
「商談不成立か。ざーんねん」
(つづく)
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