第22話:仲良しこよし(意味深)
普段の僕は喋るのが得意じゃない。だがお酒は入っているし、ウォーキンデックスさんとはここ数日一緒にいて、なんだか段々と気心が知れつつある。クローゼさんもなんというか、僕のことをある程度認めてくれている感があるし、あの飄々とした性格もあってか、とっても喋りやすい。
どういうことかわかるだろうか? 僕が間にいても、空気が澱むことがないのだ! 女の子が二人もいるのに!
ウォーキンデックスさんとクローゼさんは、喧々諤々の言い争いをしつつ、ときたま僕に質問を飛ばしたり、話題を振ってくれたりする。僕がそれに答えると、それを受けてまた二人が話し始める。なんだろうこの一体感! ちゃんとその場を醸成する空気の一部になれている感じ!
僕は思い出す。役立たずと罵られ、ダンジョンの隅っこで食べた、味のしないビスケット。殴られてぐらぐら揺れる歯で齧った鉄の味がするパン。モンスターの小便がかかったからと投げつけられたアンモニア臭い干し肉。それがいまはどうだろう。一緒に仕事をしてお金を稼いだ仲間たちと、美味しく温かい料理を食べている。
ギルドをクビになった日、人事の猫系獣人さんにボロクソに言われたあとで飲んだお酒と、今飲んでいるお酒の味は比べ物にならない。二人がいてくれて本当によかった。
じーん……と僕が感傷に浸っていると、
「そういえばゼジっちさあ、ちょっと気になったんだけど……」
ぐびりと麦酒を飲み干したクローゼさんが、そう言って泡のついた唇を舐めた。
「あんまり稼ぎないように見えて、ずいぶん質のいい鞄さげてるよね。なんかの記念品?」
「あ、これですか? これは父からもらったもので」
クローゼさんが目線をやっていたのは僕が肩から下げていた薬師の必需品・《薬瓶鞄》だった。チリチリ馬の毛皮を立体縫製して作られた一点もので、頑丈で汚れに強く、変質しにくい。アカデミー時代から重宝していたもので、自力でアイテム調達に行くときも、ギルドでこき使われてたときも、常に肩に担いでいた僕の相棒だ。
「ゼジくん、食事中もそれ外しませんよね。重いでしょうに」と、ウォーキンデックスさんも会話に参加する。お酒が入っているせいか距離が近い。ドギマギしてしまいながら僕は答える。
「そ、それが案外そうでもないんですよ。いまも二十本くらい入ってますけど、そんなに大した重さじゃないですし……」
僕がひょいっと薬瓶鞄を持ち上げてみせると、クローゼさんは訝しんだ表情を浮かべた。鞄を手にとって、今度はぎょっとした顔になる。
「いや、結構重いぞこれ。ずっと持ってたから麻痺しちゃってんじゃないの? 案外力持ちなんじゃない、ゼジっちって?」
そう言ってこちらもずぃっと顔を寄せてくる。
「そ、そうですか……?」と僕が照れていると、クローゼさんは僕の膝の上に鞄を戻した。ウォーキンデックスさんが鞄の蓋を開け、興味深そうに中を覗き込む。
「へぇ……結構入ってますね。こんなに持ち歩くものなんですか?」
「んー、他の薬師の人はどうか知りませんが、僕はこれくらいはいつも手元に置いておきたいですかね」
「へー……! ゼジっち、これ、瓶さえ開けなきゃ触ってみてもいい?」
「あ、クローゼさんずるいです! ゼジくん、私も見ていいですか?」
言うが早いか、ウォーキンデックスさんもクローゼさんもずいっと顔を寄せ、《薬瓶鞄》を覗き込む。
「うっ」と僕は思わずうめいた。気にしていないようだがふたりとも距離が近い! そして《薬瓶鞄》の置所が悪いせいか、股間の上がこしょばゆい!
どうしよう、と僕は冷や汗をかく。
ぼ、勃起しちゃいそう!
そんな僕の状況を知ってか知らずか、ウォーキンデックスさんは頭をふりふり。クローゼさんは鞄をガサゴソ。ウォーキンデックスさんの髪からは石鹸のような甘い香りがする。クローゼさんは瓶の扱いが若干乱暴で、瓶の底で僕の陰茎はぐにぐにと踏み潰された。良い匂いと心地よい刺激に、僕は息が荒くなるのを感じた。
だ、駄目だ、勃っちゃう!
「あっ、あの、クローゼさん。そろそろやめーーっ!?」
たまらず静止しようとして顔を上げると、ニヤニヤ顔のクローゼさんと目があった。え!? 何だろう、この表情!?
僕が驚愕していると、クローゼさんは僕の耳元に口を寄せ、冷やかすような声音でささやいた。
「なにゼジっち、もしかして興奮しちゃったの?」
「う! いや、え、えっと……!」
「へー、鞄の中見てるだけなのに、我慢できなくなっちゃうんだ?」
「ううう! ク、クローゼさ……」
「しーっ……白魔導師さんに気づかれちゃうよ?」
「 !?」
(つづく)
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