第21話:祝勝会、です!
そして、七日後。
「「かんぱーい!!!!」」
と、僕とウォーキンデックスさんはお酒の入った木製ジョッキを打ち合わせた。場所は街でも有数の高級個室料理店である。魔法で繋げられた色んな場所の景色をみながら食事ができる人気の料亭で、ずらりと並べられた新鮮な肉や魚や野菜や木の実は、全て《擬似・火草エキス》の売り上げで注文したものだった。
結論から言って、クローゼさんとの《擬似・火草エキス》の商談は怖いくらいに上手くいった。予約を取る必要があるぐらいにクローゼさんのダンジョン案内業は繁盛しているらしく、実証実験の結果寄せられた意見もそこまで難しいものじゃなかったおかげで、《擬似・火草エキス》の改良はすぐに完了。現在までで二十本ほど売れた。
つまり売り上げは二十万Gである!
夢みたいな金額。こんなにお金があったら欲しかったあの本やあの素材やあの窯なんかがボッカンボッカン買えてしまう。本当に夢なんじゃなかろうか、と僕が自分の頬をつねっていると、ウォーキンデックスさんは「なにしてるんですかゼジくん?」と顔を覗き込んでくる。
「言ったじゃないですか、そんなに卑下することありませんよって。入ったギルドがたまたま悪かっただけで、ちゃんと実力あるんですよゼジくんは」
「いえ、そんな……でも大半はウォーキンデックスさんのアイデアが良かったからですし、僕なんて言うことを聞いただけで……」
すると横で黙々と肉を喰っていた女性が、肉にかじりついたまま「うぇーい」と肩を組んでくる。黒衣のダンジョン案内人・クローゼさんだ。
「なぁーに言ってんのゼジっち、アンタがいなかったらアタシゃ二人のこと信用してなかったよ? 薬師としての矜持だかなんだか知らないが、アンタが正直に商品の欠点とか考えてることとか話してくれたから信用したんだ。人柄は大事だぜ。誇った方がいい」
「は、はは……そう、でしょうか? ありがとうございます」
恐縮しながら礼を言うと、「謙虚なこったねぇ」とクローゼさんが目を細める。
するとウォーキンデックスさんがジョッキを置いて責めるような声を出した。
「というかクローゼさん、なんで貴女までここにいるんです? 呼んだ覚えないんですが」
「え? 別にいいだろう、アンタらが使ってる金だって元は私が払った金なんだし。《擬似・火草エキス》が利益に変わるのだって私が案内人やってるからなんだぞ?」
「貴女が払ったというそのお金だって、元は性欲発散に来たお嬢様方が払ってくれたお金でしょう! 言っときますけど、貴女とはあくまでもビジネス上の関係なんですからね! 馴れ合う気なんかさらさらないんですからね!」
「なんでそんなにツンケンしてるのさ。ダンジョンで私が見捨てたことまだ怒ってるの? これだからお嬢様育ちは……」
やいのやいの、僕を挟んで左右で言い合いを始めるウォーキンデックスさんとクローゼさん。僕は思わず「ふふふ」と笑った。
「……え? ゼジくん? 何か可笑しかったですか?」
「白魔導師様がムキになってるのがギャップあって笑えたんじゃない?」
「あ、いえ。そんなことは滅相も」と僕は首を横に振る。それを見てニヤニヤするクローゼさん。
「ほーら、ゼジっちいま目ぇ逸らしたぞ? やっぱり面白いのさ、白魔導師さんがキーキー言ってるのが」
「そ、そんな!? そんなことないですよね!? 面白くないですよね!? ね、ゼジくん!?」
「ほーら面白い。もうその必死な感じが普段しないから面白い。笑っちゃうね! もしかしてお酒弱いのアンタ?」
「クローゼさんはちょっと黙っててくださいっ!」
やいのやいの、わあわあ。平和な夜は更けていく。僕は心の底から思った。
楽しい……っ!
みんなで稼いだお金で飲み会するの超楽しいっ……!!!!
(つづく)
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