第16話:あれ、僕また何かやっちゃいました?
「それは、どういう……?」
「いいですか?」とウォーキンデックスさんは人差し指を立てる。
「あなた昨日、《火香エキス》ってアイテム、私の目の前で合成してましたよね?」
「え? はあ、まあ、そうですけど……」
「それで昨日はあの触手型クリーチャーを撃退したと。つまり、ちゃんと機能したわけですよね。本来の用途として」
「まあ、はい。そうなりますね……?」
「私いつだったか市場で見かけたんですけど、《火香エキス》って一瓶で一万五千Gくらいするアイテムですよ。すごい高級品です」
「えっ!? そうなんですか!?」
その金額に僕は目を見張った。
一瓶で一万五千G!? そんなにするなら十本くらい売れば、僕なら余裕で三ヶ月は暮らせる金額である。昨日は確かに一発勝負で考え考え作成したが、あんなのはそんなに原価もかからない。そんなものが、そんな金額でやりとりされているなんて!
「そう。すごい値段ですよね。まあ、昨日みたいな利用のされ方で価格が高騰してるのはあるのかもしれませんけれど、それにしたってそう簡単に手に入るような値段の薬じゃないはずなんです。それをあなたはあの数分で、少し調べただけで作ってみせた。これはとんでもない技術じゃないんですか?」
「う、い、いや、でも……それはたまたまかもですし……」
「それに、ギルドを辞めさせられたって話ですけど、そもそもあなたって前線型の《薬師》さんなんですよね? 話によると、まともに調合用のアイテムが支給されてなかったみたいじゃないですか」
「へ? ああいや、でもそういうのは自分で用意するのが鉄則ってギルドマスターが……」
「《薬師》が調合用アイテムを自分で用意する? そんな話聞いたことありません。だって素材アイテムはクリーチャーを殺したり、探索にいかないと手に入らないじゃないですか。その場その場で《軽戦士》や《探索師》が手に入れたアイテムを、もっとも効率よく使えるようにするのが《薬師》の仕事でしょう。それを自給自足しろだなんて、効率が悪いったらない。そんな状況で《薬師》が本領を発揮できるわけないじゃないですか」
それを聞いて、僕は言葉につまる。
そ、そう……なのか……?
でも、じゃあなんでみんなそういう風にしてくれなかったんだろう。
「どうせ《薬師》という職業の特性をよく調べもしないまま、他のギルドが上手く使ってるからって急遽雇ったとかそんな感じでしょう。歴史の浅いギルドでは時たまあるんですよ、そういう無茶な雇用」
そ、そうだったの……?
いや、だがそういう常識を自分が備えていなかったから、自分はみんなに何も言うことができなかったわけだし、ある意味それは自分のミスとも言えるわけで……。
「あーもう、また何か考えこんでますね!?」
するとウォーキンデックスさんが、僕の手を取った。
ふわり、と柔らかい手が僕の手を包む。
「そんなに自信がないなら、私とパーティ、組みませんか?」
その言葉を飲み込むのに、僕はしばらく時間をかけて……。
「へっ!?」
と一言、やっとのことでそんな悲鳴だけを返すことに成功した。
僕――底辺薬師、ゼジ・ラクトードは、こうして――
とりあえず、無職からは脱却したようです。
(つづく)
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