第15話:僕史上初の、朝チュン。
翌朝。記憶が曖昧だった全裸のウォーキンデックスさんにビンタされた僕は、彼女をなだめ、お互いに服を来て、朝食を用意し、お互いに一通り食べ終わってから、《リジェネレート》の残機数が増加していたことを伝えた。
「さっきはごめんなさい……叩いちゃって……」
「いえいえ、大丈夫ですから、本当」
「というか、昨日も悪かったです……あんなことになってしまって……」
「い、いえいえ……僕も気持ちよかったですし……」
するとウォーキンデックスさんがキッとこちらを睨む。僕は目を逸らす。しばらく気まずい沈黙が流れたが、やがて「はぁ……」とウォーキンデックスさんがため息をついた。
「にしても、これで《リジェネレート》の秘密が明らかになりましたね。それについてはよかったじゃないですか」
なんだか喋り方が昨日より打ち解けた気がする。えっちしたせいかな……となんとなく喜ばしい気持ちになりながら、僕はしかし首を捻った。
「んーと、どういうことでしょう? もう、色々ありすぎて僕には何がなんだか……」
「えっ、わかりませんか? つまりその……セッ……すると残機が増えるんですよ、きっと」
「あ、ああー! なるほど!」
なんということだろう。それで色々と合点が行った。僕はついこの間まで、この表示を見たことがなかった。それは一度も女性と性交をしたことがなかったからだ。自分で言ってて少し悲しくなった。
しかしそれがこの間、
同じ考えに辿り着いたのか、ウォーキンデックスさんも残念そうに顔をうつむけた。
「あーあ、ちょっと幻滅しちゃったなぁ……」
と独り言のように言ってテーブルに突っ伏す。おばちゃん司書さんに聞いた話だと彼女は古の伝説や逸話が専門。勇者・ヴェレトスへの尊敬や憧れも人一倍強かっただろう。
それがまさか、彼の能力が女性とセッ……した分だけ命をストックできる能力だったとは。それで救われてしまった我々人類って……と頭を抱えたくなる気持ちもわかる。
「でも……」と僕は、ちょっと残念な気持ちで呟いた。
「それが条件なんだとしたら、僕はやっぱり、もう駄目かも知れませんね」
突っ伏していたウォーキンデックスさんが顔をあげる。眼鏡の奥の瞳が先を促していたので、僕は続けた。
「だって、僕なんかとしてくれる女の人なんて、いませんもの。昨日みたいな例外的な状況とかじゃなかったら、そんな人……僕は所詮、この年にもなって満足にギルドにも入れない、しがない底辺薬師でしかない……」
「……何か、あったんですか?」
そんな風にウォーキンデックスさんが聞いてくれて、僕は迷ったけれど、少しずつ話し始めた。体格に恵まれず、薬師を目指したこと。アカデミーは卒業したが、ギルドになかなか入れず、やっと入れたギルドでもずっと役立たずだったこと。それでギルドを辞めさせられて、その日の夜に美人局にあって殺されてしまったこと。そのとき自分に勇者と同じスキルがあることに気づいて、どうにかそれを使いこなせないかと思ったこと。
最後の辺りでは自分で話していてだんだん情けなくなってきてしまって、泣くまい泣くまいと我慢しながら話した。
全てを聞き終えたウォーキンデックスさんは、しばらく「うーん」と唸ってから、きっぱりと言った。
「そんなに卑下すること、ないんじゃないですか?」
「へ?」と、あまりに毅然と言うものだから、僕は聞き返してしまった。
「それは、どういう……?」
(つづく)
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