第9話:異常な空間。

 なんだろうここ……なんか……整備、されている……?


 そんな不思議な印象を抱きつつ、呆然とした足取りで前へ進むと、付近から女性のものと思われる悲鳴があがった!


「あああああっ! た、たすけ……っ、助けてぇっ!」


 びっくりして僕はすぐに駆け出す。近くで冒険者が襲われているのだ! 二度同じ失敗はしない。さっきは慌ててしまってできなかったが、今回は持ってきたアイテムの中から攻撃に使えそうなものをいくつか見繕い、合成しながら声がする方へ向かった。


「だ、大丈夫ですか!?」


 そして、目に入ってきたのは――

 

「いやああああ! もうダメぇーっ!」


 触手にめちゃくちゃに犯されている、女冒険者の姿だった。


 ずしゃーーっ、と駆けつけた勢いもそのままに僕は桃色の苔の上を滑っていって壁にぶつかる。パリン、と手に持っていた貴重なアイテム瓶をおっことして割ってしまった。な、な、なんだこれは!?


 第二階層にいた触手型クリーチャー。その色違いのような桃色触手クリーチャーが、半裸の女冒険者を捉えている。身体を触手という触手でまさぐられて、女性冒険者は顔を真っ赤にして叫んでいた。


「ああああ! す、すごい! すごいぃ! 死んじゃうぅーっ!」


 すごいすごいではない! どういうこと!? た、助けた方がいいのか? いや、しかしこれは……どう考えてもただよがっているだけに見えるのだが……


 変な心持ちになりながら周辺を見渡してみると、部屋の中央でよがっている女性の他に、もう一人冒険者風の女性がいた。おそらく《軽業師》か《銃使い》と思わしき、黒い服のかっこいい女の人。部屋の隅に座って、あろうことかタバコをふかしている。なんかすごいくつろいでいる風だ。


「あ、あのぉ……」


 恐る恐る声をかけてみると、黒い女の人は「あ?」と反応する。


「あれ、あんた女の子なの? 一見男の子っぽいけど……」


 う、と僕は言葉に詰まったが。


「んん、まあアタシが言うことじゃねえか」と黒い女の人は勝手に納得してくれた。


「で、なに?」と聞き返されたので、気を取り直して僕は訊ねる。

「えーと……そこの方はいったい何をしてるんでしょうか? 助けなくていいんですか……?」

 すると黒い女の人は目を少し大きくした。

「なんだアンタ、知らないで入ってきたわけ? 危ないな……」


 黒い女の人は親切に色々教えてくれた。


 なんでもここ、《苔の巣窟プランツネスト》は、女性を絶頂させてエナジードレインする触手型クリーチャー、《愛撫の渦ラボルテックス》の巣窟なのだそうだった。その性質のお陰で欲求不満の女冒険者たちから愛用されていて、裏では結構有名なダンジョンなのだと。低級ダンジョンなので貴重なお宝が手に入るわけでもないし、門番の石巨人が邪魔すぎるお陰で男性は入ってこない。挙句、第二階層にいる《愛撫の渦》の幼体が気持ち悪過ぎるので、事情を知らない女性もよっぽどのことがなければ入ってこない。そういう便利な場所なのだそうだ。


「多分昔の偉い女魔導士様が、自分用に作ったダンジョンなんじゃないかって噂だよ。議会連にも事情を知ってるお偉いさんが何人かいて、秘密を守ってるってわけ」


「は、はぁー……なるほど……」


 僕は感心半分その他半分、ため息をついた。つまり、このダンジョンは女性たちが性欲の発散に利用している秘密の花園だったわけか……これはとんでもない《いわく》がついていたものだ。よくよく耳をすましてみれば、目の前の女冒険者さん以外にも、複数人の女性の嬌声がそこかしこであがっている。なんという異常な空間だろう。


(つづく)

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